「ノーコードでできることの素晴らしさはここにある」――現場がエージェントを量産する、タナベコンサルティンググループの全社AI活用

導入前の課題
- 全社のAI活用構想は描けていたものの、実現するにはデータウェアハウス/データレイクの構築を含むフルスクラッチ開発が前提で、億単位・年単位の投資が想定されていた
- 議事録AIやチャット機能のみのAIでは、全体構想にもつながらず社内ナレッジも扱えないため、煩雑化していくファイルストレージの企画書・報告書を活用しきれていなかった。
- 生成AI利用ガイドラインが厳格になりすぎ、「これでは使えない」という声やシャドーAIが発生するリスクが想定された。
導入後の成果
- 「誰一人取り残さない」という方針のもと、AIに不慣れな社員でも扱えるシンプルな機能構成で全社利用が進んだ
- フルスクラッチ開発を前提とした構想と比べ、圧倒的に短期間・低コストで全社利用をスタートできた
- 提案・資料作成の「量」と「スピード」が格段に向上。訪問前の業界調査・整理では、約3時間から30分程度で叩き台が作れるようになった
- コンサルタント自身がノーコードでAIエージェントを開発。約4か月の推進プロジェクト期間で多数のエージェントが生まれ、事業部横断の発表会まで実施するようになった
【企業紹介】
会社名:株式会社タナベコンサルティンググループ
事業内容:経営コンサルティング
総人員数: 972名(グループ全体)※2026年8月1日現在
利用サービス: JAPAN AI AGENT/JAPAN AI CHAT/JAPAN AI SPEECH
株式会社タナベコンサルティンググループは、経営者の意思決定に伴走する経営コンサルティングファームです。全国の事業所に多数のコンサルタントを擁し、経営戦略の策定から経営オペレーションの実装・実行までを一貫して支援しています。
同社が生成AIの活用に踏み出した背景には、「誰一人取り残さない」というトップの一貫したメッセージがありました。「一部の詳しい社員だけがAIを使いこなすのではなく、全社員がAIを使える状態をつくる」という方針のもと、フェーズ1〜4に整理した全社構想を描き、ナレッジ活用・マーケティング活用・クライアント支援へと段階的に広げていく道筋を検討していました。
今回は、全社AI活用プロジェクトを統括し、全社推進を担った都築氏、全社のAI実装に向けた構想を設計した久保氏、社内研修やエージェント開発、ナレッジ活用 など、社内のAI浸透を推進する小林氏、そして運用・コスト管理を担う吉岡氏に、JAPAN AI導入の経緯と全社AI活用についてお話を伺いました。
「勝手に使われるのが怖い」から始まった。禁止のガイドラインが、かえって使えない状態を生んだ
―――JAPAN AI: 2025年12月にトライアルを開始いただき、2026年1月から本契約となりました。まずはそこに至るまでのAI活用の経緯から伺えればと思います。おそらく、ChatGPTが出始めた頃までさかのぼるお話になりますよね。
―――都築氏: そうですね。当時、社内から「GPTを使いたい」という声がすぐに出てきました。ただ、勝手に使われるのは怖い。そこでまず、生成AI利用のガイドラインを作りました。
今振り返ると、正直かなり厳しい基準のガイドラインでした。「このデータを入れてはいけない」「あれもいけない」と。設定もこちらで定めて、この形で使ってください、と決めたうえで解禁したんです。
―――JAPAN AI: それで運用はうまくいきましたか。
―――都築氏: うまくいきませんでした。というより、ルールを決めても守らない人も出てくるのが一番怖かったです。外部のサービスを個人で使ってしまう、ということも当然起こり得ます。
一方で、コンサルティング先でもすでにChatGPTを使っている企業が出てきていました。制限をかけ続けるより、ちゃんと使える環境を会社として用意したほうがいい。そう判断して、GPT-4o日本語版を全社員が使えるチャット環境として整備し、本格的な活用が始まりました。
―――JAPAN AI: 内製ではなく、既存のサービスを使われた。
―――都築氏:検討はしたのですが、パッケージが一番早いんです。社長の後押しもあって、まずは全社員が使える状態をつくることを優先しました。
全社員が使い始めて見えてきた、「個人差」と「社内ナレッジが使えない」という壁
―――JAPAN AI: 全社に展開してみて、どのような課題が見えてきたのでしょうか。
―――都築氏:まず個人ごとのレベル差が出てきました。プロンプトの書き方に長けている人もいれば、質問の投げかけ方がうまくない人もいる。そこで差が出てしまっている状況でした。
しかも、出力結果のクオリティの差は本人たちにはわかりません。基本的に個人で使うものなので、他の人と活用度合いを比較しないんですよね。だから、良い使い方をしている人のノウハウがそのまま埋もれてしまう。優れた人のプロンプトを共有化して、もっと有効活用したいといったニーズが出てきました。
―――小林氏: 全社的にAIを使い始めてから、よく使うメンバーを中心に、実際の社員の声が上がってくるようになりました。各事業所のコンサルタント向けに、AIの活用方法やプロンプトの使い方といった研修・勉強会を1年ほどかけて展開していたので、そこから「もっとこういう使い方はできないのか」「Web情報と連携できないのか」「自社のファイルストレージと連携できないのか」という要望が具体的に出てきたんです。Web情報を使いたい、社内データを使いたい、という声がいちばん多かったですね。
そこで、新しいサービスを探そうという話になったんです。
構想はフルスクラッチ前提。「年単位のプロジェクト」では、現場が取り残されてしまう
―――JAPAN AI: 一方で、全社構想はかなり早い段階から描かれていたと伺いました。
―――久保氏: 全社のAI構想を効率化→習慣化→統合化→付加価値化のフェーズ1〜4という形で整理していました。まずはチャット形式の生成AIを使ってみよう、というところから始めて、フェーズ2に差し掛かったときに「これはどういうツールがいいんだろう」という議論がかなりありました。
そもそもの出発点には、マーケティングとナレッジをどのようにつなげていくか、そして自社に眠る情報資産をどう生かしていくかが鍵でした。
たとえば、チャットボットでクライアント企業のニーズをキャッチし、訪問後には「今日はどちらに行かれたんですか」といったやり取りを重ねながら、それがデータとしてストックされていき、最終的に企画や提案に活きていく。いわゆるCRMやマーケティングオートメーションのようなことを、個人ではなく組織ベースでやっていかなければいけないという問題意識がありました。
その中で、まずは議事録AIを入れることで解決できる部分がありそうだ、と考えました。議事録AIで要約をつくり、それを別のデータベースに蓄積していければ、ある程度は実現できるのではないかと。マーケティングとの連動を考えても、議事録が使える状態になるのはメリットが大きいと思っていました。
ただ、それだけでは当然、全体構想にはつながっていきません。ナレッジという軸で見たときに、議事録だけでは足りない。
―――JAPAN AI: 御社からお見せいただいた構想図やアーキテクチャ図は、かなり精緻に描かれていました。ここまで整理されている企業様は、インタビューしてきた中でも初めてです。ただ、あれを描いた時点では、まだJAPAN AIとの出会いはなかったはずですよね。実現の難しさは感じていらっしゃいましたか。
―――久保氏: フルスクラッチ開発を覚悟していました。実際、フルスクラッチで開発するとしたらどこに依頼するのか、という観点で複数社を見に行っていた時期もあります。
本当にやりたかったのは、データの集積、いわゆるデータレイクやデータウェアハウスといったデータ構造をどうするか、というところでした。まずそこを整えなければならず、そこからさらにどうツールをつなぎ込んでいくのか、最終的なアウトプットはどうなるのかという点を考えていました。
―――JAPAN AI: データ基盤から作るとなると、もちろん投資規模も大きくなりますよね。
―――久保氏: おっしゃるとおりです。今までとは桁が違うプロジェクトで、何年かかるかわからないという進め方をしていると、その間に世間のAI活用の流れに取り残されてしまう。最終的に「まずはAIを使ってもらう」というところに主眼を置き、スピーディーに導入できたことは、本当に良かったと思っています。
議事録AIで決まりかけた稟議に、「ちょっと待った」がかかった
―――JAPAN AI: 新しい環境を探すにあたっては、社内でどのような進め方をされたのですか。
―――都築氏: 委員会でテーマアップして検討しました。当初のテーマは議事録です。精度が高く、精査された情報をもっと手軽に手に入れられれば効果が全然違うだろう、と考えていました。そのため、まずは議事録の自動生成で優れたものを探していこう、という方針でした。
―――小林氏: 私も実際に複数のツールを触って、比較・検証しました。その中で「これが良さそうだ」というものがあって、ほぼ決まりかけていたんです。
―――久保氏: 社内の委員会では通っていて、契約の前段階まで来ていました。そこで「本当にこれで目的が達成できるのか?」と立ち返り、再検討の時間をいただきました。
ちょうどそのタイミングで、「自社でAIエージェントを開発してみてはどうか」という話が出てきました。それであらためて候補を4社まで絞り込み、その中にJAPAN AIさんがいた、という流れです。
―――JAPAN AI: 4社を比較されて、議事録の機能自体には差はありましたか。
―――久保氏: 議事録という機能単体で比べると、正直そこまで大きな差はありませんでした。むしろ差がついたのはその周辺機能です。社内データの活用やファイルベースの活用、当社の場合はファイルストレージ連携ですね。そしてノーコードでのAIエージェント作成。
初期段階で実現したいことはデータベースの構築とその活用でしたから、「ワンプラットフォームで何でもできそうだ」という点が判断軸になりました。
セキュリティが担保されていることも大前提です。そのうえで、ノーコードでカスタマイズできるというのも、大きな魅力の一つでした。
「誰一人取り残さない」を実現できるか。ノーコードで現場が使えることが決め手に
―――JAPAN AI: 最終的な決め手はどこにありましたか。
―――久保氏: もともと当社のトップが「誰一人取り残さない」という考え方を一番大事にしていて、全社員がAIを使える状態をつくりたい、とずっと言っていました。それを実現できるのがJAPAN AIだった、ということです。
機能としても非常にシンプルで、チャットが使える、エージェントが使える、議事録・音声録音が使える。これなら社内のどのプロジェクトでも使えるよね、というのも決め手の一つでした。
ほかのノーコードツールでは、ワークフローを組んでエージェントをつくっていくケースがほとんどだと思います。それがチャットによる対話のみの自然言語でつくれる状態にあるというのは、AIに慣れていない人たちからすると、非常に良いツールだなと。
社内がデジタルに強く、RPAなどで業務を自動化することに慣れている会社であれば、別の選択肢でもよかったと思います。ただ、社内にはまだAIをよく知らない人や、使うことに懸念がある人も多かった。ユーザビリティが高く、それでいて使える人はどんどん深掘りできるという点が良かったですね。
―――JAPAN AI: 本契約後は、すぐに全社プロジェクトが立ち上がったと伺いました。
―――都築氏: 1月から契約を開始して、社長から「全社を挙げて支援するプロジェクトをやってほしい」と言われました。そこでチームを構成し、1月からどんどん動き始めた形です。コンサルティングの業務が終わってから「こんなものを作ったからテストしてみてほしい」というやり取りをずっと続けていて、それを重ねるうちに形になっていきました。
「縛る」から「守って使わせる」へ──全社展開を後押ししたガイドライン刷新
―――JAPAN AI: ガイドラインの整備は、かなり苦労されたと伺いました。
―――都築氏: 本当にそこは苦労しました。最初にチャット機能だけの生成AIを使っていたときもガイドラインは作っていたのですが、「これを入れてはいけない」「あれもいけない」という、かなり厳しいルールでした。学習をオフにする設定はしていたものの、基本的には必要最低限の利用にとどめる、という運用です。
一方で、個人で別のAIを使う、いわゆるシャドーAIのような状態や、出力をそのまま転記してしまうといったトラブルも想定されました。ちょうどJAPAN AIを導入するタイミングでもあったので、これを機にガイドラインを作り直そう、ということになりました。
そこから議論を重ねました。「他のシステムはどうなのか」と。ファイルストレージにもいろいろなデータを入れているし、グループウェアにもデータは入っている。ではなぜAIだけがだめなのか、と。
JAPAN AIのプラットフォーム内であれば学習はオフになっているので、安全な環境として利用していくべきではないか、という整理に至りました。過剰な制限で使えない状態にしてしまうより、まず社員にAIの成功体験を持ってもらうほうが先だと考え、もっと緩やかなガイドラインに作り直しました。
―――JAPAN AI: 最終的にどのようなルールに落ち着いたのでしょうか。
―――都築氏: 必要最低限のルールを守ってもらう代わりに、JAPAN AIのプラットフォームを介さないAI利用は原則禁止、という形にしました。法務チェックなど特定領域に特化したAIは申請制にして、基本的なAI利用はJAPAN AIを介して行うという運用です。
社員向けの説明では、JAPAN AIからご提供いただいた資料を使いました。契約しているファイルストレージにファイルを預けるのと、JAPAN AIのクラウドに預けるのは同じこと。そこからさらにLLMへ渡るかどうかが、世間で言われる情報漏えいの分かれ目であり、当社が選んだプラットフォームはそこをオプトアウトしている、と説明したんです。
実際、お客様から「AIを使っているなら、うちの情報が渡っているのでは」と聞かれたこともあり、その説明にも使いました。
―――JAPAN AI: 社内から反発はありませんでしたか。
―――都築氏: 全社の管理職が参加する大きな会議で説明したので、何か言われるかと思っていたのですが、誰一人言ってこなかった。むしろ「使っていいんだ」と受け止められました。いまは法務も普通に使っています。ただ、誰かがセキュリティ上の安全性を明確に示さないと、そこは動かないんですよね。
社長からは「アメリカの自動運転は進んでいるよね。危ないこともたくさんあったと思うけれど、チャレンジしているからこそ、そうなっている」と言われました。もちろん事故が起きてはいけないけれど、リスクを最低限に抑えられるのなら、きちんと説明して使わせてあげてほしい、と。
クレジット管理は「使い方」で変わる
―――JAPAN AI: 導入当初、不安に感じられたことはありましたか。
―――吉岡氏: クレジットですね。当初はあまり意識していなかったのですが、いざ運用が始まると、半日でかなりの量を消費する人も出てきていました。今は仕事のスピードが確実に上がっているので、それなりのコストは仕方がない、と社長にも納得してもらっています。
―――小林氏: クレジット消費が大きいケースを確認すると、「AIは何でもできる」という期待から、複数のファイルを一度に読み込ませて複雑な処理をさせるなど、消費量が大きくなりやすい使い方をしているケースがあります。そのため、原因や使い方を確認しながら、より効率的な使い方をご案内する運用をしています。
―――都築氏: よくあるのは、メール文化がそのまま持ち込まれているケースです。お客様ごとにチャットルームを一つ作って、要件が変わってもずっと同じ場所で続けてしまう。「すぐクレジットがなくなる」と相談を受けて、使い方を聞いたらまさにそれでした。要件ごとにチャットを切り分けてもらったら、消費量が一気に下がったんです。ちゃんと聞けば、改善できる余地は結構あります。
量とスピードは格段に向上。コンサルタント自身がエージェントを作り始めた
―――JAPAN AI: JAPAN AIを導入して、提案の「質」「量」「速さ」は変わりましたか。
―――久保氏: 正直に申し上げると、質はまだまだ変わっていないと思います。AIに頼りすぎてしまう人が増えていて、「この資料で言いたいことはここだよね」という肝の部分がずれていても気付きづらい。
ただ、量と速さについては格段に上がっています。言葉を選ばずに言えば、経験の浅いメンバーであってもスピードが上がる。そうするとフィードバックの回数と質も上がるので、結果的に質が上がっていく、という効果は期待できると思っています。
―――JAPAN AI: 具体的に、どのようなエージェントを作られているのでしょうか。
―――小林氏:企画書作成系のものと、クライアント訪問の準備ですね。コンサルタントが考えるべきヒアリング事項などを、AIに叩き台として作らせるものです。
訪問準備のエージェントでは、外部の情報と当社が蓄積してきたナレッジを組み合わせながら、訪問前の情報整理やヒアリング項目の作成を支援しています。 資料作成については、 SVG形式の画像などで資料のたたき台をAIで作成し、 その後、人がPowerPoint上で編集しながら、最終的な内容を判断・仕上げる形で活用しています。
―――小林氏: もう一つ作ったのが、 AIエージェント開発を支援する サポートエージェントです。プロンプトの作り方がわからず止まってしまう人が多かったので、作りたいイメージを投げ込むだけで、AIが一緒にプロンプトを考えてくれるものを用意しました。
社内では「こういう成果物を作りたい」と、完成イメージから逆算で考える人が多いんです。そこで、成果物を投げるとプロンプトを一から構築してくれる形にしました。中身も、「ステップ1:成果物を投げてください」「ステップ2:ユーザーに何を入力させたいですか」「ステップ3:どんなデータを使ってAIに考えさせたいですか」と誘導する構成にしています。
AIにどこまで任せ、人はどこから判断するのか。その組み合わせをエージェント自身が説明してくれるようにしました。
―――都築氏: 全社では、事業部・セグメントごとのチームでAIエージェントを開発しています。コンサルタント自身がノーコードで開発しています。機能説明や解決したい業務課題、公開範囲、主な用途、インプットとアウトプット、そしてKPIとしての削減時間。この項目でまとめて、開発したら発表する、という運用にしています。誰が責任を持って管理するエージェントなのかも、この管理シートで明確にしています。
最初は生成AIしか使ったことがないメンバーばかりでした。小林が作り方の動画を用意してくれて、それをもとに各自が開発を始めた。ロジックツリーを作るエージェントも、「2ステップでできるよ」とサンプルを示したら、「エージェント内のプロンプトを変更すれば、いろんな業態で対応できる」となって一気に広がりました。ノーコードで開発できることの素晴らしさは、まさにここにあると思います。フロー開発やコード開発が前提だったら、お手上げでしたから。
確認したところ、実質4か月ほどで想像以上のエージェントが生まれていました。しかもこれは、推進プロジェクトの時間の中だけで実現したものです。作った本人たちも「使って感想を聞かせてほしい」「変更してほしいことがあれば言ってほしい」と言っているくらいで、これは進化だと感じています。
―――JAPAN AI: エージェント化する前と比べて、どのくらい業務効率化につながっているのでしょうか。
―――小林氏: 3時間ほどかかっていた調査・整理・まとめが、30分ほどで最初の叩き台が作れるようになった、と聞いています。
一方で、直近では「エージェントを使って企画書を作り、うまく提案できた」という声もあれば、エージェントを活用して作成した企画書を説明している最中に「ページをめくりながら、この内容をどう説明すればいいのかわからなくなった」という声も聞いています。
こうした経験も、AIとの適切な役割分担に気づくきっかけになると考えています。研修や勉強会で注意事項として伝えるだけでは、なかなか自分ごととして捉えにくい部分もあります。 「AIってすごいよね、魔法の杖だよね」という考え方はまだあるので、実際に使う中で、 AIに任せる部分と人が判断すべき部分を体感してもらい、そこで気づいてもらうことが大切だと思っています。実際、活用を重ねる中で AIの扱い方をつかめている人が増え始めている実感があります。
―――JAPAN AI:提案の質を改善するために実施している取り組みはありますか?
―――久保氏: 「ナレッジの蓄積と活用」というテーマで進めています。企画書や報告書はファイルストレージに蓄積されていくものの、本格的な活用には至っていない。業務に直結した活用イメージが持てず、検索して参考にする程度にとどまり、蓄積自体も煩雑化しているのが課題でした。
提案の質の改善の方向性としては、ナレッジの規範を再整備し、AIプラットフォームの活用によってナレッジサイクルを習慣化していくこと。SECIモデルのようなサイクルをどう回していくかを考えています。プラグインやデータセットを使って、蓄積した情報をどう引き出し、どう使うか。事例の検索やレコメンド、企画書・報告書の作成サポート、そして最終的には品質のフィードバックまでできるようになってほしいと思っています。
「クライアントにとって本当に良い提案とはこういうものだ」ということを学習していければ、品質のフィードバックもできる。格納する側にも品質評価を入れておかないと、期待値が下がり、結局活用されなくなってしまうので、良いものだけを蓄積したい。入口と出口をきちんと整理する動きが、現在実施している取り組みです。

タナベコンサルティンググループが作成した議事録作成エージェント
全国の拠点へ、そして役員へ。テーマを変えながら実施した勉強会や研修会
―――JAPAN AI: ここまで全社にJAPAN AIが浸透した要因は、どこにあるとお考えですか。
―――小林氏: 全国の事業所で、それぞれの現場課題やテーマに合わせた勉強会を実施したことだと思います。 事業所によって抱えている課題が違うので、内容もそれぞれに合わせて変えています。全社共通の研修を一度やって終わりではなく、地域ごとの課題に紐づけたほうが自分ごとになりやすいんです。
―――都築氏: 加えて、役員向けのAI研修も2回実施しています。経営層には、AIがもたらす経営環境の変化を正しく理解するとともに、AI活用に伴うセキュリティやガバナンスに関する知見を高め、経営判断に活かしていくことを目的として実施しています。
TCGが長年培ってきたコアスキルは、AIに渡さない
―――JAPAN AI: クリティカルシンキングの研修もされていると伺いました。AIと思考法の関係については、どうお考えですか。
―――久保氏: AIだからということではなく、当社の文化としてクリティカルシンキングを重視しています。ロジカルシンキングも当然必要ですが、どちらかというとクリティカルシンキング、「本当にそうなのか」と問い直す思考のほうを重視している。社内でも、クライアントに対してもお伝えすることが多い領域です。
明確に「クリティカルシンキング研修」という科目として教えるというより、すべての研修の中にそれが組み込まれている設計にしています。AIに特化した研修は小林が担当していますが、思考法そのもの、根源に近い部分は、むしろ最近増やしているくらいです。
―――JAPAN AI: それほどクリティカルシンキングのノウハウが溜まっていると、それをエージェント化する、という発想も出てくると思います。逆に、あえて作らないという選択もある。そのあたりはいかがですか。
―――久保氏: すごく面白い着眼点だと思います。あってもいいかな、とは思っています。イメージとしては、批判をし合うエージェントですね。Why・So Whatを繰り返していく中で、本当のイシューは何で、打ち手は何なのか。その思考を手伝ってくれるものは、確かに面白い。
ただ、当社がずっと使い続けている言葉の中に「一言集約」という言葉があります。
―――JAPAN AI: 「一言集約」ですか。
―――久保氏: 膨大な情報を、最終的に一言でまとめるスキルのことです。 TCGのフレームワークに基づいて、経営理念や創業の原点から入って、外部環境分析、社内のリソースやケイパビリティ、組織・人材特性、財務分析まで全部やり切ったうえで、最後に「この会社は、ここだよね」と一言で言い切る。それが我々のコアスキルです。
これは、失ってはいけないスキルだと思います。
―――JAPAN AI: 分析そのものは、AIがどんどん速くなっていますよね。
―――久保氏: そうなんです。分析や集計は、もう格段にペースが変わりました。ちゃんとした一次データがあるものの分析は、AIが本当に得意です。
でも「一言集約」は、情報を要約することとは違うんですよ。集めた情報の中から、この会社にとって何が本質なのかを選び取って、経営者に向かって言い切る。責任を持って言い切るところまでが「一言集約」です。そこにAIを噛ませて、簡単に出させることはできると思います。便利です。ただ、そこに甘えられては困る。
―――JAPAN AI: なぜでしょうか。
―――久保氏: クライアントに指導できなくなってしまうからです。自分でその思考プロセスを通っていない人間が、経営者に「御社の課題の本質はここです」とは言えません。我々はそれを教える側でもあるので、自分たちがAIに預けてしまったら、コンサルタントの価値が薄れていく。
だから、「一言集約までやってしまうエージェント」は、たぶん作ってはいけないんだと思っています。
―――JAPAN AI: そうなると、AIの役割はどのあたりになりますか。
―――久保氏: ベテランが何を考えているのかを、プロセスとして見せてくれるエージェントですね。答えを出すのではなく、考える順番を起動してくれる。若手が持っている引き出しを、引き出させる。そういうメンター的なAIであれば、指導のしやすさは確実に変わってきます。実は、そういうものを作れないかと社長とも話していました。
答えを出すAIではなく、問いを返すAI。そこは意識して線を引いているところです。
「効率化」から「付加価値創出」へ。クライアントの情報を集約する体制を目指して
―――JAPAN AI: もともと想定していたことは、どの程度実現できていますか。
―――久保氏: 結論から言うと道半ばです。最終的には、クライアントに使ってもらうことがベースにあります。我々の強みは「伴走支援」です。クライアントと一緒にプラットフォームを活用しながら、AIでできることは自社でできるようにサポートし、それでも解決できない本質的な経営課題解決、また経営者の決断を支えるパートナーとして、企業成長に向けた支援を我々がしていく。そんな構想を実現するまでには、AIに対する理解も、社内の仕組みづくりもまだまだ始まったばかりです。
社内での活用は非常に進んでいますし、これはJAPAN AIでなければできなかったと思います。効率化という点では非常にうまくいっている。ここから付加価値を生み出すフェーズに進んだときにどこまでできるのか、そこは楽しみにしている部分であり、一緒に取り組んでいきたい部分でもあります。
TCGは、JAPAN AIを日々の業務やコンサルティングに組み込み、ナレッジ・知見・データ・現場の判断を結び付けながら、仕事の進め方そのものを進化させていきます。AIに任せる領域と人が担う領域を見極め、実践と検証を重ねる。そして、社員一人ひとりがAIを使いこなし、組織全体で学びを共有しながら、顧客への提供価値を高め続ける。これが、TCGが実践するAIネイティブ経営です。





