幅広いSKUのワインECを“更新し続ける”ために。サントリーが進めた生成AIの業務実装プロセス

導入前の課題
- ワインの種類が膨大で入れ替えが早く、「作っては更新する」運用の連続
- 商品を訴求するための情報が分散しており、販売するワインへの商品理解と訴求づくりの”下調べ”に時間がかかっていた
- 商品ページに集約された情報を、LINEなどの短文コミュニケーションで表現する際のルールが十分に体系化されていない
- デジタル活用を推進する部署としてAIで業務効率化を推進したいという想いはあれど、日常の業務に追われ、なかなか踏み出せていなかった
導入後の成果
- 週次の伴走(壁打ち会議)を軸に、現場の業務に当てはめながら使いどころが具体化し、定着が進み始めた
- 情報収集の時短によって余白が生まれ、「戦略」の領域まで手が回り始めた
- 過去配信に対する議論の経緯や知見が蓄積され、アップデートされ続けるLINE/メルマガの配信チェックフローが形になり始めた
【企業紹介】
- 会社名:サントリーホールディングス株式会社
- 創業:1899年
- 事業内容:清涼飲料、酒類、健康食品、外食・サービスを手がける総合飲料メーカー
- 従業員数:41,628人(グループ全体、2025年12月31日現在)
- 利用プロダクト:JAPAN AI AGENT
総合飲料メーカーとして多様な事業を展開するサントリーホールディングス。同社デジタル&AI本部は、事業部横断でDX・AI活用を推進し、マーケ・営業業務領域、日常業務領域の現場実装を通じて、事業成長と変革を生み出す役割を担っています。
今回の取り組みの中心となったのは、グループ会社「ヴィノスやまざき」のEC領域です。ヴィノスやまざきは、全国27店舗とオンラインショップを運営し、社員自らが現地ワイナリーに足を運んで直接買い付ける”目利き”を強みに、卸・小売を展開するワイン企業。商品の種類が非常に多く、在庫の入れ替えも激しい中で、お客様にワインを楽しんでもらうために、毎月多くの企画を立案しているため、ECの現場ではバナーや訴求文などの更新が頻発します。
サントリー(デジタル&AI本部)は、ヴィノスやまざきのECの売上拡大を支援する立場として、人がやらなくても良い単純作業の工数を圧縮しながら、少人数でも質の高い顧客体験を生み出せる状態をつくることを重視。その実装手段のひとつとしてJAPAN AIを導入し、伴走を通じて「何をどうAIに任せるか」を現場に落とし込んできました。今回は、推進の中心となった関島さんに加え、実務を担当された榎さんと津崎さんに、導入初期の壁から具体的なユースケース、今後の展望までお話を伺いました。

▶︎導入前の課題
種類が多く更新作業が終わらない。「止まらない運用」への課題
―――JAPAN AI:まず、ヴィノスやまざきの事業と、EC領域の特徴を教えてください。
――関島氏
ヴィノスやまざきは、ワインの卸と小売を営んでいて、全国に27店舗とオンラインショップを運営しています。特徴は、世界中の蔵元(ワイナリー)に直接行って買い付けを行い、そのまま店舗とECで販売する点です。一方でワインは種類が膨大で、在庫の入れ替えも激しい。ECではバナーや訴求文の更新が頻発して、作業量が積み上がりやすい構造があります。
AIを導入した背景は、率直に言うと、現場の膨大な業務量を目にし、「これ、どうにか効率化できないかな」というのが最初のきっかけでした。お客様に最新の情報を届けるため、ECは何度も画像を差し替え、文章を作り、広告も配信する。そして、作ったものの使用期間が短い。たとえば広告は2週間配信したら次を試すときもありますし、もちろん売り切れたらページも変わります。作って終わりではなく、季節や商品の差し替えに伴い更新し続ける仕事が多い。
ヴィノスやまざきに携わる少人数のスタッフでも回る状態に圧縮して、よりよいECとしてお買い物を楽しんでいただくために頭を使う業務に工数を寄せたい、というのが背景でした。
―――JAPAN AI:導入にあたって不安はありましたか?
――関島氏
導入に関しては、元々、サントリーのグループ内で広告バナーの量産やLP構成のたたき台作成、クリエイティブ制作の効率化など、先行して取り組みがあったこともあり、JAPAN AIに迷いなく決めました。
ただ、不安がゼロだったわけではありません。セキュリティは事前にチェックしていたので大きな懸念はなかったのですが、もう一つの不安は「実務として習慣になるかどうか」でした。生成AIは便利でも、結局”使う人だけが使う”になりがちですし、導入して終わりだと、現場は目の前の仕事をこなすことに追われて活用は後回しになります。
コスト面も同じで、ツール自体の利用料に加えてサポート費が大きく膨らむと、さすがに続けづらい。JAPAN AIは、カスタマーサクセスに伴走してもらえる体制がありつつ、その負担が現実的な範囲に収まると分かったので、「まず環境を整えてみよう」と踏み切りました。実際、最初の1〜2カ月はほとんど使われない時期もありましたが、週次で壁打ちしながら”自分たちの業務に当てはめる”ところまで落とし込めたことで、少しずつ運用が回り始めた、という感覚です。
▶︎導入後の変化
「何に使えばいいか分からない」状態から、業務に”活用できる”使い方が見え始めた
―――JAPAN AI:導入してすぐの現場は、どんな状態だったのでしょうか。
――榎氏
生成AIって何でもできると言われていますが、自分たちの業務の中で何に使えるんだろう、を探るのが一番ハードルでした。見えないものを探るために、どれくらい時間がかかるんだろう、という”腰の重さ”があって。導入しただけだと、結局そこで止まりやすいんだと思います。
私自身の業務でも、プロンプトの書き方に最初は迷っていました。何をどう聞けばよいのかが分からない、という戸惑いが先に来る。そこを埋めるために、初心者向けのプロンプトを作ってくれるエージェントを最初の頃はよく使っていました。使ううちに「こう書けばいいのか」と分かってきたのは大きかったです。
最初の1〜2カ月は、まさにこの「入口」で止まりかけていました。そこで効いたのが、JAPAN AIカスタマーサクセスとの週次会議設定いただき、伴走いただいたこと。日々の業務をそのまま題材にして「今やっている作業なら、どこをAIに任せられるか」「まずは何を、どう聞けば結果が出るか」を一緒に組み立てる。試行錯誤に時間を取れない現場にとって、ここが使い始めるきっかけになりました。
―――JAPAN AI:実際使用してみてどのような効果が出ましたか?
――榎氏
現場で最初に手応えがあったのは、情報収集の領域です。ワインは種類が多く、入れ替えも早い。さらに言語も情報の格納場所も散在していて、従来は複数のフォルダやページをクリックし、翻訳し、要素を拾うまでに時間がかかっていました。それが、商品名を入れるだけで、背景や特徴、蔵元の情報が返ってくる。感覚として30分かかっていたものが1〜2分で完了するようになり、最終的に整える時間を含めても、これまでの5分の1程度で回せるようになってきています。
もう一つ、導入後の変化として大きいのは「これはAIでできるのか?」という問いが、現場で定期的に立ち上がるようになったことです。以前は「既存業務の中で、どこにAIを当てればいいか分からない」状態でしたが、今は困りごとが出た時に”AIという選択肢”が自然に想起される。その小さな習慣の変化が、次の活用につながり始めています。

余白時間を「次の戦略を生むため」の仕事へ!AIが特別ではない日常がスタート
―――JAPAN AI:AIを業務に取り入れたことによって、今後の活用はどのように変化していきそうですか?
――榎氏
生成AIで時間が浮いたことの意味は大きいです。これまで商品ページを作るのに2〜3時間かかっていた情報収集が圧縮されて、単に早くなっただけではなく、次の戦略を考える仕事に回せる余白が生まれました。たとえば、単純にひとつのチャネルで配信を行う、というレベルから、全体最適でどの媒体にどう出すかまで考える、というより上流の仕事に私も一緒に入っていけるようになっています。
言い換えると、AIに任せたいのはヴィノスやまざき内に散らばる膨大な情報を「調べる・集める」といった初動の重たい部分で、そこで浮いた時間を”打ち手の質”に振り向けられる状態を作りたい。セット画像やクリエイティブの領域を進めるのも、最終的には、その余白をさらに大きくしていくためですね。
ECのオンラインチームで言うと、次に取り組み切りたいのは「セット画像」のような、定型だけどまだ置き換え切れていない業務です。ここは芽が見え始めている分野なので、まず手をつけたい。加えて、いずれはバナーなどのクリエイティブでも、制作のスピードを上げていける状態を作りたいと思っています。以前は運用の論点で止まった部分もありましたが、いまでは「操作感を見れば使えそう」という空気が出てきているので、ここはあらためて進めるべきタイミングだと感じています。
――津崎氏
私の領域だと、LINEやメルマガの”チェックフロー”を仕組みにしていくところが次の領域です。例えばLINEだと週に5〜6本配信していますが、榎が話したような膨大な商品情報を短い文章で魅力的かつ正しく伝えることが必要です。そのための細かい注意点や表記ルール、それを複数人で確認した際の過去のフィードバックが積み上がっていけばいくほど、担当者が変わったときに一気に崩れやすい。チェックリストはただ形にするだけでは形骸化しがちなので、入れるだけで最新の観点を返してくれる状態にしたいです。
いまはフロー完成の6〜7割の段階まで来ていて、残りは「どう更新し続けるか」という部分ですね。人が変わっても、品質とルールが更新され続ける状態を作れたら、コミュニケーションアップデートの速度が変わり、よりお客様に寄り添った配信戦略を組み立てるための時間が取れるので、結果としてブランドの成長の速度も変わってくると思っています。
――関島氏
ヴィノス以外のサントリー社内の視点でいうと、一つは、AIが特別なものではなくて、日常の会話に自然に出てくる状態にできるといいな、と思っています。いま「ググる」が当たり前になったように、「まずAIに聞こう」が当たり前になる。もう一つは、AIでできること/できないことの線引きを、会社として少しでも共有できる状態ですね。
サントリーは「人の心を動かす」という、AIではできないところに強みがある会社でもあるので、何でもAIに寄せればいいとは思っていません。ただ、現状は人によってAIを活用できる範囲や度合いが異なるので、「ここならAIが効くよね」という共通認識が持てるだけでも、部署をまたいだ会話はかなりスムーズになるはずです。
そのためには、まず現場の困りごとに効く”小さな成功体験”を作って、デジタル&AI本部から発信して、”そんなことができるんだ”という気付きを届け、問い合わせが生まれて、また次が動く。その積み重ねだと思っています。






