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MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とは?仕事内容や必要スキル

msl とは

製薬業界では、科学的根拠に基づく情報交換を専門に担う職種「MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)」への関心が高まっています。日本製薬工業協会(製薬協)は2022年7月に「MSLの目指すべき方向性」を公表しました。一般財団法人日本製薬医学会(JAPhMed)は、2014年に評価項目を策定した「MSL制度認証事業」の認証基準を、2025年7月18日付で改定しています。2026年4月には協和キリンが認証を取得するなど、MSLをめぐる業界のルールづくりが進んでいます。

しかし、MSLとはそもそもどのような職種なのか、MR(医薬情報担当者)とは何が違うのか、どのような業界ルールのもとで活動しているのか、キャリアとして検討する際に何を確認すべきかといった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

本記事では、MSLの定義や特徴から、MRとの違いや業界ルール、そしてキャリアを検討する際の確認点まで、JAPAN AIが網羅的に解説します。

MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)とは?

MSLとは「Medical Science Liaison(メディカル・サイエンス・リエゾン)」の略称です。製薬協の「MSLの目指すべき方向性」では、MSLは担当する疾患領域において最新の科学的知識に基づき、社外医科学専門家と中立的な立場で医学的・科学的な交流を行うことを主な業務とする職種と位置づけられています。また、科学的中立性が求められる役割であることから、MSLが所属する組織は営業部門から分離・独立していることが必要だとされています。

同じ文書では、MSLの交流相手を「社外医科学専門家」と呼んでいます。同文書は社外医科学専門家を「医学または科学に関連する特定の専門分野において卓越した見識を有し、その分野あるいは学会などにおける主導的な立場にある社外の専門家」と定義しています。一般には、KOL(Key Opinion Leader:その領域で影響力を持つ医学専門家)をはじめとする医療従事者が、主な交流相手です。JAPhMedも、MSLの活動は営業の販売促進(プロモーション)とは異なる位置づけにあるとしています。なお、MSLは法令上の資格ではありません。

ただし、組織を分ければ自動的にプロモーションから独立していると扱われるわけではありません。厚生労働省の「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」に関するQ&Aの問4は、社内規則でMSLの活動を販売情報提供活動と明確に切り離していても、それだけでガイドラインの適用から除外されるわけではないとしています。販売情報提供活動に当たるかどうかは、実際になされた活動により個別に評価・判断されると示されています。職種としての位置づけとは別に、ガイドラインの適用では一つひとつの活動の中身が問われる点を押さえておきましょう。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」
出典:日本製薬医学会「MSL制度認証事業」
出典:厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインに関するQ&Aについて」

MSLの目的と役割

MSLの主な役割は、社外医科学専門家と科学的根拠に基づく情報を双方向に交換することです。中立的な立場で医学的・科学的な交流を行う点が、MSLの活動の前提です。

具体的には、最新の臨床試験データや論文をもとに、医療従事者が抱える科学的な疑問について対話します。情報を一方的に「渡す」のではなく、医師の研究テーマや関心領域を理解したうえで議論を組み立てる点に、MSL活動の特徴があります。

なお、薬機法第68条の2の6は、製造販売業者に対し、医薬品等の適正な使用のために必要な情報を収集・検討し、医薬関係者に提供するよう努めることを求めています。つまり、適正使用のための情報提供はMRだけの役割ではありません。一方で製薬協は、各社が整備するMSLの手順書に、社外医科学専門家から「営業部門が行う特定の医薬品の適正使用推進活動」と見なされないような行動規範を含めることを求めています。適正使用に関わる企業の責務と、MSLに求められる中立性を分けて理解すると、両職種の違いを正確に捉えられます。

出典:e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

MSLが活躍する領域

MSLの主な活躍の場は、製薬企業です。製薬協の文書によると、MSLの所属する組織はメディカルアフェアーズ部門のほか、開発部門や社長直轄などに置かれています。特にオンコロジー(がん領域)や希少疾患、免疫疾患などの専門性の高い領域では、医師が求める科学的情報も高度になりやすく、MSLの専門性を活かせる場面が多いと考えられます。

製薬企業に直接雇用される形のほか、CSO(医薬品の販売・情報提供に関わる業務を受託する企業)に所属し、コントラクトMSLとして製薬企業のプロジェクトに配属される働き方もあります。製薬協も、コントラクトMSLの導入など雇用形態の多様化が進んでいると指摘しています。契約の形や配属の単位はCSOや案件によって異なります。

どの組織で働く場合も、営業部門から独立した立場で活動するというMSLの原則は変わりません。応募先を比べるときは、業務内容だけでなく、MSLの独立性をどのような社内体制で守っているかにも注目すると、働きやすさを見極めやすくなります。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

MSLが注目されている背景

MSLが注目されている背景には、エビデンス重視の医療とコンプライアンス強化という二つの流れがあります。

一つ目は、エビデンス重視の流れです。バイオ医薬品やゲノム医療の進展によって治療の選択肢は複雑になり、医師が高度な科学的情報を必要とする場面が増えているとみられます。販売促進とは切り離して科学的な議論ができる人材は、こうした場面で重要な役割を担うと考えられます。

二つ目は、コンプライアンス強化の流れです。厚生労働省は2018年9月25日に「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を通知し、2019年4月1日から適用しました(一部の規定は同年10月1日から適用)。製薬協は2019年に「メディカル・サイエンス・リエゾンの活動に関する基本的考え方」をまとめ、MSLの役割や業務、要件、営業部門からの独立などの基本的なあり方を示しました。さらに2022年7月の「MSLの目指すべき方向性」では、この考え方を最低限満たすべき要件と捉え、今後目指すべき方向性を示しています。

加えて、JAPhMedは企業のMSL認定制度を第三者として認証する事業を行っています。認証の対象は各社のMSL社内認定制度であり、個々のMSLに資格を与えるものではありません。行政のガイドライン、業界団体の文書、第三者による制度認証という三つの仕組みが重なり、MSLに求められる水準が明確になってきました。

出典:厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて」
出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」
出典:日本製薬医学会「MSL制度認証事業」

MSLの仕事内容

MSLの仕事内容は、医学専門家との科学的な交流と、その準備となる情報収集が中心です。医療従事者との面談や学会参加に加え、論文の精読や社内ミーティング、面談準備などが日々の業務を構成します。MSLの代表的な業務は以下のとおりです。

  • KOLとの関係構築・訪問
  • 医学・科学情報の収集・提供
  • 学会・セミナーへの参加
  • 社内へのフィードバック
  • 臨床研究・論文サポート

JAPhMedの認証基準は、医学専門家との学術的交流などの「基本的なMSL活動」と、企業によってメディカルアフェアーズ部門が担う研究活動・論文化とを区分しています。MSLの仕事内容は企業ごとに範囲が異なるため、上記のすべてがどの企業でも標準業務というわけではない点を押さえておきましょう。

出典:日本製薬医学会「認証基準」

KOLとの関係構築・訪問

MSLの基本的な業務の一つが、KOLとの科学的なディスカッションを通じた関係構築です。KOLに限らず、医療従事者からの個別の問い合わせへの対応や、医療従事者との科学的な意見交換も業務に含まれることがあります。

面談の前には、関連する論文や臨床データを読み込み、資料を準備します。相手の医師がどのような研究テーマに取り組んでいるか、どの領域にアンメットメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)を感じているかを事前に把握しておくことで、議論が深まります。JAPhMedの認証基準では、アンメットメディカルニーズの収集やメディカルインサイトの特定を、MSL活動の目的として設定していることが評価項目の一つです。

面談後は、内容を社内規程に沿って記録・共有し、次回の面談に向けた準備につなげます。KOLとの面談は一度きりではなく、科学的に意味のある対話を積み重ねるプロセスです。準備の質がそのまま対話の質に表れる業務だといえます。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」
出典:日本製薬医学会「認証基準」

医学・科学情報の収集・提供

MSLは論文や臨床データを継続的に収集・分析し、医療従事者の科学的な質問に根拠をもって応える役割を担います。扱う情報は、自社製品に関するものに限らず、疾患領域の科学的情報を含む場合があります。未承認薬や適応外使用に関する情報は、厚生労働省のガイドラインで、医療関係者から求めがあった場合に、通常の販売情報提供活動と切り分け、要求内容に沿ったものに限り、要約・省略・強調をせずに提供するなどの条件が定められています。

提供できるのは企業としてガイドラインに適合すると判断した情報で、開発中の治験情報も、jRCTやClinicalTrials.govなどで公開されているものが例として示されています。MSL個人の判断で提供できるものではなく、社内の手続きを経て対応します。

この業務では、膨大な医学文献の中から臨床的に重要な情報を見極める力が問われます。たとえば、新たに発表されたランダム化比較試験の結果をどう解釈するか、試験デザインにどのような限界があるかを読み解いたうえで説明することが求められます。

科学的な正確性を保ちながら、相手の専門性や関心に合わせて伝える力が、MSLの情報提供の質を左右します。

出典:厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて」
出典:厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインに関するQ&Aについて(その2)」
出典:日本製薬医学会「認証基準」

学会・セミナーへの参加

学会への参加は、MSLが研究動向や治療トレンドを把握するための重要な機会です。企業によっては、医学専門家とのネットワーキングや、アドバイザリーボードミーティング(社外の専門家から専門的な意見を集めるための会合)の企画・運営にも関わります。

学会で得た知見は、社内のメディカル戦略の検討に活かされるほか、医学専門家との対話の材料としても活用できます。MSLにとって学会は、自身の専門知識を更新する場であると同時に、科学的な議論の土壌を広げる場でもあります。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

社内へのフィードバック

MSLは、医療現場で得たインサイト(洞察)やアンメットメディカルニーズを社内に共有し、メディカル戦略や研究開発の検討材料として届ける役割も担います。

たとえば、医学専門家から「既存のエビデンスでは特定の患者集団での効果が十分に示されていない」と指摘を受けた場合、その情報を開発部門などと共有し、追加の研究やデータ分析を検討するきっかけにします。共有した情報が実際の戦略に反映されるかどうかは、社内の意思決定プロセスによって異なります。

JAPhMedの認証基準は、営業・マーケティング・開発部門との連携を基本的なMSL活動に含めています。一方でJAPhMedは、販促活動からの独立性(コンプライアンス体制)を、医学・科学性、教育体制と並ぶ評価の観点として掲げています。商業部門とインサイトを共有する場合は、社内規程で定められた範囲と手順に沿って、情報の性質や種類ごとに共有の可否を判断したうえで行います。独立性を保ったまま現場の声を社内に届けることが、この業務の要点です。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」
出典:日本製薬医学会「認証基準」
出典:日本製薬医学会「MSL制度認証事業」

臨床研究・論文サポート

研究者主導臨床研究の支援や論文化への関与は、JAPhMedの認証基準では企業によってメディカルアフェアーズ部門が担う活動として、基本的なMSL活動とは区分されています。MSLがこの業務に関わるかどうか、どこまで関わるかは企業によって異なります。

研究者主導臨床研究(IIS:Investigator Initiated Study)は、研究の主体と独立性が研究者側にある臨床研究です。承認申請を目的として医師自らが治験を企画・実施する「医師主導治験」とは区別されます。

また、2018年4月1日に施行された臨床研究法では、特定臨床研究が定義されています。製薬企業などから研究資金等の提供を受けて行う、その企業の医薬品等を用いた臨床研究に加え、未承認の医薬品等や適応外の医薬品等を用いた臨床研究が該当します。

ただし、令和6年法律第51号による改正(2025年5月31日施行)で、適応外の使用であっても、研究対象者の生命と健康へのリスクが薬事承認済みの用法等による場合と同程度以下のものは、特定臨床研究の対象から除外されました。研究資金等を提供する製薬企業などには、契約の締結や情報の公表が義務付けられています。研究支援にどう関わるかは社内規程で定められているため、この業務に関心がある場合は、応募先での関与の範囲を確認してください。

出典:日本製薬医学会「認証基準」
出典:e-Gov法令検索「臨床研究法」
出典:厚生労働省「適応外使用に関する特定臨床研究の対象範囲について」

MSLとMRの違い

MSLとMR(医薬情報担当者)は、どちらも製薬企業から医療従事者に情報を届ける職種ですが、活動目的と所属の位置づけが明確に異なります。

比較項目MSLMR
所属部門営業部門から分離・独立した組織(製薬協の文書上の整理。ガイドラインが適用されるかは活動内容で判断される)営業部門
活動目的社外医科学専門家との中立的な医学的・科学的交流医療用医薬品の適正使用と普及を図るプロモーション、医薬品の品質・有効性・安全性に関する情報の収集・提供
主な対話相手KOLをはじめとする医療従事者幅広い医療従事者
扱う情報自社製品に限らず、疾患領域の科学的情報を含む場合がある製品情報・添付文書・ガイドライン
売上目標原則として設定しない企業・職務により異なる
評価指標法令では一律には定められていない。製薬協は、販売実績など営業部門に関連する指標を含めず、活動目標の達成度や業務プロセスの遂行度で評価すべきとしている。具体的な指標は企業ごとに異なる企業・職務により異なる

最も本質的な違いは、活動の「目的」です。MRの活動は医薬品の販売促進と結びついていますが、MSLは中立的な立場での医学的・科学的交流を主な役割とします。MSLが提供する情報は、自社製品に有利な方向へ誘導するものではなく、科学的根拠に基づく客観的なものであることが求められます。

日本では歴史的にMRが学術的な情報提供も担ってきた経緯があります。職種としてのMSLは、所属と活動目的によって位置づけられます。一方、ガイドラインの対象になるかどうかは、所属ではなく実際の活動内容で判断されます。この二つを分けて理解しておきましょう。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」
出典:e-Gov法令検索「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令」
出典:公益財団法人MR認定センター「MRとは」

MSLの年収と働き方

MSLの年収や働き方には、公的な統計で示された標準的な水準がなく、企業・求人ごとに条件が異なるのが実情です。検討する際は、一般的な相場感に頼らず、個別の求人条件で判断することが欠かせません。

年収

MSLの年収は、求人や企業の報酬制度によって異なります。MSLに限った公的な賃金統計は公表されていないため、具体的な金額は求人票や労働条件通知書で確認する必要があります。確認するときは、以下の項目に注目するとよいでしょう。

  • 基本給と賞与の構成
  • 手当の種類と支給条件
  • 評価制度と昇給の仕組み
  • 雇用形態(正社員かコントラクトMSLか)

MR経験者がMSLへ移る場合は、MR時代に受け取っていた営業関連の手当やインセンティブの扱いが変わる可能性があります。基本給だけで比べず、総年収の内訳と評価の仕組みを並べて比較することで、転職後の待遇を正確に見積もれます。

働き方

MSLの働き方は、企業や求人によって勤務形態が異なります。在宅勤務の可否や、出張の頻度、学会参加に伴う休日対応の有無は、求人票や面接で確認する必要があります。

学会への参加は業務の一部であり、開催日程によっては出張や週末の対応が発生することがあります。勤務条件の確認では、通常期の働き方と学会参加時の働き方を分けて質問すると、入社後のイメージとのずれを防げます。

MSLに求められるスキル・資格・関連制度

MSLに求められるスキル・資格は、専門知識を軸に、対話力・語学力・発信力を組み合わせたものです。製薬協は、「高度な専門知識、科学的中立思考、高い倫理観」を持つMSLが活動できるよう、各社に資格要件を設定することを強く望んでおり、これらを実際の対話の場で発揮するためのスキルが必要です。主なスキル・資格・関連制度は以下のとおりです。

  • 専門知識
  • コミュニケーションスキル
  • 語学力
  • プレゼンテーションスキル
  • 資格・学位
  • JAPhMedによるMSL制度認証事業

なお、最後に挙げた制度認証は個人の資格ではなく、応募先企業の育成体制を見極めるための参考情報です。どのスキルをどの程度求めるかは求人によって異なるため、自分の強みと不足しているスキルを整理し、応募先の要件と照らし合わせて準備を進めましょう。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

専門知識

MSLには、担当する疾患領域に関する深い医学・薬学知識が欠かせません。論文や臨床データを読み解く力に加え、知識を更新し続ける姿勢が求められます。

MSLに必要なのは、知識を蓄えることだけではありません。新しいエビデンスが発表されたときに、既存の知見の中での位置づけがどう変わるかを判断できる力が求められます。たとえば、新薬の作用機序や治療ガイドラインの変更を理解し、医学専門家との対話で的確に議論できることが必要です。

医学論文を批判的に読み解く力は、日々の文献レビューの積み重ねによって磨かれます。論文を読む時間を習慣的に確保することで、MSLとして通用する専門性を着実に高められます。

コミュニケーションスキル

MSLの業務は、医学専門家との対話や面談の調整、社内他部門との協業など、対人コミュニケーションが中心です。科学的な情報を相手の関心や理解度に合わせて伝える能力が重要です。

MSLのコミュニケーションは、一般的な営業スキルとは異なります。売り込みではなく、科学的根拠に基づく対話を成り立たせることが目標です。医師から厳しい質問を受けても根拠を示して冷静に答え、すぐに答えられない場合は「その点は持ち帰って調べます」と誠実に対応する姿勢が、信頼につながります。

語学力

MSLの業務では、英語論文の読解力が求められる場面が多くあります。外資系製薬企業では、グローバル本社とのやり取りにビジネス英語が必要なケースもあります。

求められる英語力の水準は求人によって異なります。応募前に、読み書き中心なのか会話も必要なのかを求人票で確認し、不足している部分を計画的に補いましょう。

プレゼンテーションスキル

MSLには、限られた時間の中でデータを的確に示し、議論を組み立てる力が求められます。臨床データを図表やスライドにまとめ、エビデンスの強さと限界を整理して伝える技術は、MSLならではのスキルです。

アドバイザリーボードミーティングなどでは、複数の医学専門家を前に説明する場面もあります。聞き手に合わせて情報の詳しさを調整し、質疑応答にも柔軟に対応できる力は、MSLとしての評価を高める要素です。

資格・学位

MSLは法令上の資格ではなく、MSLになるために法律で定められた必須の資格・学位はありません。一方で製薬協は、MSLが医療分野の資格や、医学・薬学などの自然科学分野の学位を持つことが望ましいとし、今後は医療系資格や生命科学系の博士号(PhD)の保有なども考慮することを推奨しています。

製薬協の2019年度調査では、MSLの資格要件を設定していない会社が半数を超えていた一方、設定していた会社では、医師・薬剤師・看護師などの医療系資格か、理系学士以上の学位を要件としており、理系学士以上とする会社は7割を超えていました。応募要件として、薬剤師免許や博士号(PhD)、修士号などを求める、または歓迎する求人はあります。

学位や資格の要件は企業・求人ごとに異なるため、求人票で「必須要件」と「歓迎要件」を区別して確認してください。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

JAPhMedによるMSL制度認証事業

JAPhMedは、各製薬企業のMSL社内認定制度を第三者として評価・認証する「MSL制度認証事業」を行っています。認証の対象は企業の制度であり、個々のMSLに資格を与えるものではありません。

JAPhMedは2014年に評価項目を策定しました。「販促活動からの独立性(コンプライアンス体制)」「医学・科学性」「教育体制」の三つの観点から、書面調査と実地調査によって審査します。認証基準は2025年7月18日付で改定され、基本的なMSL活動と、企業によってメディカルアフェアーズ部門が担う研究活動・論文化とを区分して評価する構成がとられています。

2026年4月10日には協和キリンが認証を取得したと発表しました。2026年10月27日に確認したJAPhMedの公開一覧には、アストラゼネカ、武田薬品工業、中外製薬、アレクシオンファーマ、協和キリンの5社が掲載されていました。一覧は更新されることがあるため、応募先の認証状況は公式ページで確認してください。

出典:日本製薬医学会「MSL制度認証事業」
出典:日本製薬医学会「認証基準」
出典:日本製薬医学会「MSL制度認証事業 認証取得企業一覧」
出典:協和キリン株式会社「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)認定制度に対する認証を取得」

MSLのやりがいと大変さ

MSLのやりがいと大変さは表裏一体であり、高い専門性が求められることによる充実感と負荷の両面を理解しておくことが、キャリア選択の判断材料です。

MSLのやりがい

MSLのやりがいは、販売促進から離れて科学的な対話に取り組めることにあります。主なやりがいは以下のとおりです。

  • 科学的な対話に集中できる:中立的な立場で、科学的根拠に基づく議論に取り組める
  • 最新の医療情報に触れ続けられる:論文や臨床研究に日常的に触れ、知的好奇心が満たされる
  • 医学専門家との深いディスカッション:医師と科学的根拠に基づいて議論できる知的刺激がある
  • 医療への貢献を意識できる:提供した情報が医療現場での検討材料として活かされる可能性がある

ただし、自分の面談や情報提供が治療アウトカムの向上に直接結びつくとは限りません。貢献の実感は、担当領域や社内の意思決定プロセスによって変わると理解しておくと、MSLになった後のギャップを小さくできます。

MSLの大変さ

MSLには、成果の見えにくさや継続的な学習負荷といった独特の大変さもあります。主な大変さは以下のとおりです。

  • 成果が見えにくい:売上のような明確な数値目標がなく、評価の基準がわかりにくいことがある
  • 知識の更新が欠かせない:担当疾患領域の動向を追い続ける必要がある
  • 学会対応の負荷:学会の日程によっては出張や休日対応が発生することがある
  • 役割の説明が必要:社内外でMSLの役割を理解してもらうための説明が求められる場面がある

MSLのキャリアを検討する際は、やりがいだけでなくこうした大変さも含めて判断しましょう。「科学的な対話で医療に関わりたい」という動機が明確であれば、負荷のある時期も乗り越えやすい職種です。

MSLになるには

MSLになるには、社外からの転職・社内異動・コントラクトMSLという複数のルートがあります。どのルートが現実的かは経歴や立場によって異なるため、求人の要件と照らし合わせて選ぶことが重要です。

MSL未経験から目指すには

MSL未経験から目指す場合は、MRやCRA(臨床開発モニター)、研究職、薬剤師などの実務で培った専門性を足がかりにMSLへ転じるのが一般的なルートです。製薬協の2019年度調査では、MSLの前職は営業部門が半数近くを占め、研究・開発、メディカルアフェアーズや他社のMSL、アカデミア、新卒などが続いていました。前職の上位には営業部門や研究・開発といった製薬企業内の部門が並んでおり、業界での実務経験がないままMSLを目指すのは現実的には難しいと考えられます。理系のバックグラウンドを応募要件とする求人が多い一方、MSL未経験者の応募を認めるかどうかは求人ごとに異なります。

MRや研究職などからMSLに挑戦する場合、評価のポイントは、これまでの業務で培った疾患領域の専門知識や論文読解力を具体的に示せるかどうかです。面接で疾患領域の知見や科学的な議論の力を問われることを想定し、応募先企業が扱う薬剤と対象疾患について理解を深めておきましょう。製薬協も、MSLの導入研修に含めることが推奨される項目として、担当疾患領域や関連製品の知識を挙げています。事前に押さえておきたい知識は以下のとおりです。

  • 電子化された添付文書やインタビューフォームの内容
  • 臨床試験データと安全性データ
  • 薬効薬理と作用機序
  • 競合品の情報と最新の薬物治療の動向
  • 診療ガイドラインに示される標準的な治療

前職での経験を応募先の製品や疾患領域と結びつけて説明できるよう準備しておけば、MSL未経験であっても専門性を評価してもらいやすいでしょう。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

社内異動

すでに製薬企業に勤務している場合、社内公募制度や人事異動、グループ会社からの転籍などによるMSLへの異動も選択肢です。担当していた疾患領域や製品の知見を活かせる点や、社内の体制を理解している点がメリットです。

MRから異動する場合は、プロモーション活動とは異なる行動規範を身につける必要があります。社内公募に応募する前に、MSLの職務内容と、営業部門からの独立性に関する社内規程を確認しておきましょう。

コントラクトMSLという選択肢

CSOに所属するコントラクトMSLも、MSLとしての経験を積むルートの一つです。製薬企業のプロジェクトに配属され、案件が変わると担当企業や疾患領域が変わる場合があるため、多様な経験を積める可能性があります。

一方で、契約形態や雇用条件はCSOや案件によって異なり、製薬企業の正社員MSLとは待遇や安定性が違う場合があります。コントラクトMSLとして経験を積んだ後に、製薬企業のMSLを目指すルートもあるため、長期的なキャリアの中での位置づけを考えたうえで判断しましょう。

転職の準備・ステップ

MSLへの転職準備は、求人の要件確認を起点に進めることが大切です。立場によって確認すべき点が異なるため、以下の順序で進めるとよいでしょう。

  • 要件の確認:社内の場合は公募の職務内容と独立性に関する社内規程を、社外の場合は求人の学歴・経験要件を確認する
  • 応募先の体制確認:MSLの独立性や教育体制をどう整えているか、MSL制度認証の取得状況を含めて確認する
  • 専門知識の棚卸し:要件に照らして、自身の疾患領域知識や臨床・研究経験を整理する
  • 応募書類と面接の準備:医学情報提供や臨床研究への関与の実績を具体的に記載し、科学的な議論の力を示せるよう準備する

転職エージェントの活用は、要件を確認した後の情報収集の手段として位置づけると効果的です。応募先の要件と自分の経歴の重なりを先に把握しておくことで、応募の優先順位を判断しやすくなります。

MSLのキャリアパスと将来性

MSLとしての経験は、メディカルアフェアーズ領域を中心にキャリアの選択肢を広げる経験です。科学的な知見と医学専門家との対話経験は、社内のさまざまな職種で活かせる可能性があります。

マネジメント職への昇進

代表的なキャリアパスの一つが、MSLチームを統括するメディカルマネジャーや、MSLが所属する部門のリーダーへの昇進です。チームの統括やメディカル戦略の立案に関わる役割です。

マネジメント職では、個人としての科学的な対話力に加えて、メンバーの育成や他部門との調整力が求められます。MSLとして独立性を保ちながら社内外と連携してきた経験は、部門運営でも活かせます。

グローバルキャリア

外資系製薬企業では、グローバルプロジェクトへの参加や海外本社との連携を通じて、国際的なキャリアを築く道もあります。

各国のメディカルチームと連携する業務に関わる機会があるかどうかは、企業や組織体制によって異なります。グローバルな業務に関心がある場合は、応募時に海外拠点との連携体制を確認するとよいでしょう。

開発・マーケティングへの転身

MSLで培った医学的知見は、臨床開発部門やマーケティング部門などでも活かせる可能性があります。メディカルエデュケーションやHEOR(Health Economics and Outcomes Research:医療経済・アウトカムリサーチ)など、専門性を活かした職種への異動も選択肢の一つです。

マーケティング部門などの商業部門へ移る場合は、MSL時代とは異なる行動規範のもとで活動することが求められます。異動の可否や条件は企業の規程によって異なるため、社内のキャリア制度と独立性に関するルールを確認したうえで検討しましょう。

MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)に関してよくある質問

MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)を検討する際によく挙がる質問に回答します。

MSLに売上目標やノルマはありますか?

MSLは営業部門から独立した立場で活動するため、MRのような売上目標は原則として設定されません。評価の方法は法令では一律に定められておらず、製薬協は販売実績など営業部門に関連する指標を含めないとしていますが、具体的な指標は企業ごとに異なります。異動や転職の前に、どのような指標で評価されるのかを確認してください。

MSLになるために博士号は必須ですか?

MSLは法令上の資格ではないため、法律で定められた必須の学位はありません。ただし、製薬協は今後の方向性として博士号の保有も考慮することを推奨しており、博士号を応募要件や歓迎要件に挙げる求人もあります。求人票で「必須要件」と「歓迎要件」を確認し、自分の経歴で応募できるポジションから検討しましょう。

文系出身でもMSLになれますか?

MSLの求人では理系のバックグラウンドを要件とするものが多いため、応募できる求人は限られる可能性があります。学歴要件は企業や求人によって異なるので、まず求人票で要件を確認してください。応募する場合は、MRとしての実績や疾患領域の知識、論文読解力を具体的に示せるよう準備しましょう。

出典:日本製薬工業協会「メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の目指すべき方向性」

MSLは専門性を活かせるキャリアの選択肢

本記事では、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)の定義と仕事内容、MRとの違い、業界ルール、キャリアを検討する際の確認点を解説しました。

MSLは、営業部門から独立した立場で、社外医科学専門家と医学的・科学的な交流を行う職種です。厚生労働省のガイドライン、製薬協の文書、JAPhMedによる制度認証という仕組みのもとで、MSLに求められる水準は明確になってきています。一方で、ガイドラインが適用されるかどうかは所属ではなく活動内容で判断される点や、研究支援などの業務範囲が企業によって異なる点も押さえておく必要があります。

MSLを目指す場合、次の行動は立場によって異なります。製薬企業に在籍している方は、社内公募の職務内容と、営業部門からの独立性に関する社内規程の確認から始めましょう。社外から応募する方は、求人の学歴・経験要件を確認し、応募先がMSLの独立性や教育体制をどう整えているかを見極めてください。