「戦略人事」という言葉を耳にする機会が増えたものの、「従来の人事と何が違うのか」「具体的に何をすればよいのか」がわからないという方も多いのではないでしょうか。
人的資本経営への注目が高まり、2026年3月には人的資本可視化指針の改訂版が公表され、人事部門に求められる役割は大きく変化しています。もはや給与計算や労務管理だけをこなす「管理部門」ではなく、経営戦略の実現を支える「経営のパートナー」としての機能が不可欠です。
本記事では、戦略人事の定義や従来の人事との違いから、注目される背景、4つの機能・役割、具体的な施策例、実践ステップ、必要なスキル、課題と解決策、成功事例までJAPAN AIが解説します。自社の人事部門を「攻めの人事」へ変革するためのヒントとして、ぜひお役立てください。
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戦略人事とは?
戦略人事とは、経営戦略を実現するために、人的資本を最大限に活用・配置・育成する人事マネジメントの考え方・役割のことです。
この考え方は、1990年代にミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が人事部門を「戦略的パートナー」として位置づけた議論を通じて広まりました。ウルリッチ教授は、人事部門が管理業務だけに留まるのではなく、経営戦略と人材戦略を連動させることで企業の競争優位を生み出す「戦略的パートナー」になるべきだと説いています。
つまり、戦略人事とは単なる人事業務の効率化ではなく、「どのような人材を、どこに、どう配置・育成すれば経営目標を達成できるか」を起点に人事施策を設計・実行する「攻めの人事」です。経営戦略から逆算して人材戦略を策定し、組織全体の成長を牽引する点が最大の特徴といえます。
従来の人事との違い
戦略人事と従来の人事の違いは、人事部門の役割と視点の違いにあります。
| 項目 | 従来の人事 | 戦略人事 |
|---|---|---|
| 役割 | 管理・オペレーション中心(守りの人事) | 経営パートナー(攻めの人事) |
| 主な業務 | 給与計算、労務管理、採用事務、勤怠管理 | 経営戦略に基づく人材戦略の策定・実行 |
| 視点 | 社内の業務効率化・コンプライアンス | 経営目標の達成・企業価値の向上 |
| 意思決定 | 過去の慣例・前例踏襲 | データに基づく科学的な判断 |
| 経営層との関係 | 指示を受けて実行 | 対等なパートナーとして提言・協働 |
従来の人事が「決められた業務を正確にこなす」ことに重きを置いていたのに対し、戦略人事は「経営にどう貢献するか」を常に問い続ける姿勢が求められます。ただし、従来の人事業務が不要になるわけではありません。オペレーション業務を効率化しながら、戦略業務にリソースをシフトしていくことが重要です。
人事戦略との違い
「戦略人事」と「人事戦略」は混同されやすい概念ですが、両者は明確に異なります。
- 戦略人事:経営戦略の実現を目的に、人事が経営パートナーとして機能する考え方・役割
- 人事戦略:経営戦略の実現に向けた施策の体系(採用戦略、育成戦略、評価制度改革など)
両者の関係を整理すると、戦略人事という大きな枠組みの中で、具体的な人事戦略を策定・実行するという構造です。戦略人事が「Why(なぜやるか)」と「What(何をやるか)」を定義し、人事戦略が「How(どうやるか)」を具体化する関係ともいえるでしょう。
戦略人事が注目される背景
戦略人事が多くの企業で注目されている背景には、経営環境の急速な変化があります。ここでは、特に影響の大きい2つの要因を解説します。
人的資本経営と情報開示の義務化
戦略人事への注目を加速させた最大の要因が、人的資本経営への社会的な関心の高まりです。
人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大化することで中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方です。2023年3月期決算から、上場企業は有価証券報告書において人的資本に関する情報開示が義務化されました。
さらに2026年3月には、内閣官房・金融庁・経済産業省が「人的資本可視化指針」の改訂版を公表しました。
また、2026年2月に公布・施行された内閣府令の改正により、連結ベースの経営戦略と関連付けた人材戦略や、それを踏まえた従業員給与等の決定方針の記載が新たに義務化されています。人事部門は単に制度を運用するだけでなく、経営戦略との連動を明確に示す必要が生じました。
こうした制度面の変化が、人事部門に「経営のパートナー」としての役割を求める大きな推進力です。
出典:内閣官房「人的資本可視化指針の改訂について」
出典:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令等の公布及びパブリックコメントの結果について」
少子高齢化と労働市場の変化
日本では少子高齢化の進行により、生産年齢人口の減少が続いています。総務省の推計によると、2025年時点で65歳以上の人口は総人口の29.3%に達しており、人材獲得競争は年々激化しています。
こうした状況に加え、以下のような労働市場の構造変化が同時に進行しています。
- 雇用の流動化:終身雇用の前提が崩れ、転職が一般化。優秀な人材の確保・定着がより困難に
- ジョブ型雇用の普及:職務内容を明確にしたジョブ型雇用への移行が加速し、人材の適材適所がより重要に
- 働き方の多様化:リモートワークの定着、副業・兼業の解禁により、従来の画一的な人事管理では対応が困難に
これらの変化に対応するためには、人事部門が経営と一体となり、中長期的な視点で人材戦略を策定・実行する「戦略人事」の機能が不可欠です。
また、労働基準法の改正についても、2025年に研究会報告書で勤務間インターバルの義務化や連続勤務の上限設定といった論点が示されました。2026年通常国会への法案提出は見送られたものの、改正論点自体は継続検討中であり、将来の法制度変化を見据えた戦略的な準備も求められています。
戦略人事に必要な4つの機能・役割
ウルリッチ教授は、人事部門が果たすべき4つの役割として「戦略パートナー」「管理のエキスパート」「従業員のチャンピオン」「変革のエージェント」を提唱しました。この考え方をもとに、現在では戦略人事を実現するための組織機能としてHRBP・CoE・OD&TD・OPsの4つに整理されることが一般的です。各機能の役割と相互の関係性を解説します。
4つの機能は独立して存在するのではなく、相互に連携しながら戦略人事を支える仕組みです。HRBPが現場のニーズを吸い上げ、CoEが制度・仕組みを設計し、OD&TDが組織と人材の成長を支援し、OPsがオペレーションを安定的に運用する、この4つが有機的に機能することで、戦略人事は実現します。
HRBP(HRビジネスパートナー)
HRBPは、事業部門の「右腕」として経営戦略から逆算した人材・組織課題を設計する役割を担います。
具体的には、事業責任者と密に連携しながら、その事業に必要な人材像を定義し、採用・配置・育成の方針を現場の実情に即した形で策定・実行します。人事部門と事業部門の「橋渡し役」として、経営戦略を現場レベルの人事施策に落とし込むことがHRBPの最大のミッションです。
2026年時点では、HRBPの役割はさらに拡大しており、組織変革のファシリテーターやデータに基づく意思決定の推進者としての機能も期待されています。
CoE(センター・オブ・エクセレンス)
CoEは、人事領域の専門家集団として、全社横断的な制度設計を担う機能です。
評価制度・報酬制度・採用戦略・人事システムなど、高度な専門知識が求められる領域において、最適な制度やプロセスを設計します。各事業部門のHRBPから寄せられる現場の課題を踏まえつつ、全社統一の人事ポリシーを策定し、標準化を推進する役割を果たします。
CoEが設計した制度や仕組みは、HRBPを通じて各事業部門に展開されるため、CoEとHRBPの緊密な連携が成果を左右します。
OD&TD(組織開発・人材開発)
OD&TDは、組織開発(Organization Development)と人材開発(Talent Development)の両輪で、組織力の強化と個人の成長を支援する機能です。
組織開発の観点では、心理的安全性の醸成、チームビルディング、組織文化の変革などに取り組みます。人材開発の観点では、1on1の仕組み化、サクセッションプラン(後継者育成計画)の策定、次世代リーダーの育成プログラムの設計・運用を担います。
経営戦略の実現に必要な組織能力と個人のスキルを計画的に開発することで、戦略人事の実行力を底上げする重要な機能です。
OPs(オペレーションズ)
OPsは、給与計算・労務管理・勤怠管理・社会保険手続きなどの定型業務を正確かつ効率的に遂行する機能です。
「戦略人事」というと華やかな戦略業務に目が向きがちですが、日常のオペレーション業務が安定的に運用されていなければ、戦略業務にリソースを割くことはできません。OPsの役割は、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やシェアードサービス化、HR Techの活用によってオペレーション業務を効率化し、人事部門全体が戦略業務に注力できる環境を整えることにあります。
戦略人事の具体的な施策例
戦略人事の考え方を理解したところで、実際にどのような施策が行われているのかを見ていきましょう。ここでは、多くの企業で導入が進んでいる代表的な3つの施策を紹介します。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員のスキル・経験・キャリア志向・パフォーマンスなどの人材情報を一元管理し、適材適所の配置や計画的な育成を実現する手法です。
戦略人事において、タレントマネジメントは中核的な施策の一つです。経営戦略の実現に必要な人材ポートフォリオ、すなわちどの部門にどのようなスキルを持つ人材が何人必要かを設計し、現状とのギャップを可視化することで、採用・育成・配置の優先順位を明確にします。
タレントマネジメントシステムを導入することで、人材データの一元管理と分析が可能になり、データに基づいた人事意思決定の精度を高められます。
リスキリング・リカレント教育
事業戦略の変化に対応するためには、既存の従業員のスキルを再開発する「リスキリング」が欠かせません。
特にDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、デジタルスキルを持つ人材の育成は多くの企業にとって喫緊の課題です。外部からの採用だけでなく、社内人材のリスキリングによってDX人材を確保する動きが加速しています。
また、従業員が自律的に学び続ける「リカレント教育」の仕組みづくりも重要です。2026年3月には人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースが拡充されており、こうした公的支援の活用も視野に入れた施策設計が効果的です。
ピープルアナリティクス・データ活用
ピープルアナリティクスとは、人事データを分析し、採用・配置・離職予防・エンゲージメント向上などの意思決定を科学的に行う手法です。
従来の「経験と勘」に頼った人事判断から脱却し、データに基づくエビデンスドリブンな意思決定を実現することで、人事施策の精度と再現性を高めます。
2026年のトレンドとして特に注目すべきは、生成AIやAIエージェントの人事業務への活用です。エントリーシートの評価支援、離職予兆の検知、従業員へのキャリア提案、面接日程の自動調整など、AIを活用した人事業務の高度化が急速に進展しています。ただし、AI活用においては公平性・透明性の確保が重要であり、最終的な意思決定は人間が行うという原則を維持してください。
戦略人事の実践ステップ
戦略人事を自社で実践するには、段階的なアプローチが有効です。4つのステップに分けて具体的な進め方を解説します。
経営戦略・ビジョンの理解
戦略人事の出発点は、自社の経営戦略・中期経営計画・ビジョンを正確に理解することです。
人事部門が経営のパートナーとして機能するためには、まず「会社がどこに向かおうとしているのか」を深く理解する必要があります。経営層との定期的な対話の場を設け、事業の方向性や成長戦略、直面している課題を把握しましょう。
具体的には、以下のような情報を整理します。
- 中期経営計画の重点テーマと数値目標
- 新規事業の計画や既存事業の再編方針
- 競合環境や市場の変化に対する経営の認識
- 経営層が人材面で感じている課題や期待
この段階で経営戦略の理解が不十分だと、以降のすべてのステップがずれてしまうため、時間をかけて丁寧に取り組んでください。
人材戦略の策定
経営戦略を理解したら、次はそこから逆算して人材戦略を策定しましょう。まず、経営戦略の実現に必要な人材像(求める人材像)を定義します。「どのようなスキル・経験・マインドセットを持つ人材が、どの部門に、何人必要か」を具体的に明確化する必要があります。
次に、人材ポートフォリオを設計し、現状の人材構成とのギャップを分析します。このギャップが、採用・育成・配置に関する具体的な施策の出発点です。
人材戦略の策定においては、以下の観点を含めることが重要です。
- 必要な人材の質(スキル・コンピテンシー)と量(人数)
- 現状とのギャップ(不足しているスキル・ポジション)
- ギャップを埋める手段(採用・育成・外部調達の優先順位)
- 時間軸(短期・中期・長期での人材確保計画)
施策の立案と実行
人材戦略が策定できたら、具体的な人事施策を立案し、実行に移します。
採用計画や育成計画、配置計画、評価制度の見直しなど、人材戦略のギャップを埋めるための施策を優先順位をつけて設計します。この際、各施策にKPI(重要業績評価指標)を設定し、進捗を定量的に管理できる仕組みを整えることが重要です。
施策のKPI例としては、以下のようなものがあります。
- 採用:重要ポジションの充足率、採用リードタイム、内定承諾率
- 育成:研修受講率、スキル習得率、資格取得者数
- 配置:適材適所配置率、異動後のパフォーマンス変化
- エンゲージメント:従業員エンゲージメントスコア、離職率
すべてを一度に実行しようとするのではなく、インパクトの大きい施策から着手し、小さな成功体験を積み重ねながら段階的に拡大していくアプローチが効果的です。
評価・改善
施策を実行したら、定期的に効果を測定し、PDCAサイクルを回します。
設定したKPIの達成状況を定量的に把握し、施策の効果を検証します。うまくいっている施策は継続・拡大し、期待した効果が出ていない施策は原因を分析して改善策を講じましょう。
評価結果は経営層に定期的に報告し、人事施策の成果を「見える化」することが重要です。経営戦略の変化に応じて人材戦略も柔軟に見直し、常に経営と人事の方向性を一致させ続けることが、戦略人事を持続的に機能させる要諦です。
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戦略人事に必要なスキル・要件
戦略人事を推進する人事担当者には、従来の人事スキルに加えて、より広範なビジネススキルが求められます。ここでは、特に重要な3つのスキル・要件を解説します。
経営戦略・事業戦略の理解
戦略人事の担い手に最も求められるのは、人事の枠を超えて経営戦略・事業戦略を深く理解する力です。
財務諸表の読解、市場環境の分析、競合分析などのビジネススキルを身につけ、経営層と同じ目線で議論できる状態を目指す必要があります。「人事の専門家」であると同時に「ビジネスのプロフェッショナル」であることが、戦略人事の担い手に求められる最も重要な要件です。
経営戦略を理解するための具体的なアクションとしては、経営会議への参加、事業部門との定期的な意見交換、業界動向の継続的なリサーチなどが挙げられます。
課題解決力・リーダーシップ
戦略人事は、組織の変革を推進する役割でもあります。そのため、組織課題を発見し、解決策を立案・実行する力が不可欠です。
現状を分析して本質的な課題を特定する論理的思考力、解決策を構想する企画力、そして関係者を巻き込みながら変革を実行するリーダーシップとファシリテーション力が求められます。
特に、戦略人事への転換は組織全体の意識改革を伴うため、現場の抵抗に向き合いながらも粘り強く推進する姿勢が重要です。コミュニケーション力を活かして経営層・現場の双方と信頼関係を構築し、変革の推進力を高めていくことが求められます。
データ活用力
データに基づく意思決定は、戦略人事の実行に欠かせません。HRアナリティクスやピープルアナリティクスの基礎知識を持ち、人事データを分析してエビデンスに基づく意思決定を行う力が求められます。具体的には、以下のようなスキルが含まれます。
- 人事データの収集・整理・分析の基本的な手法の理解
- 統計的な指標(離職率やエンゲージメントスコア等)の読み解き方
- タレントマネジメントシステムやBIツールなどのHR Techツールの活用スキル
- データから示唆を導き出し、施策に結びつける力
すべてを自分で分析する必要はありませんが、データを活用した意思決定の重要性を理解し、専門チームと連携しながらデータドリブンな人事を推進できるリテラシーが求められます。
戦略人事の課題と解決策
戦略人事の導入・推進にあたっては、多くの企業が共通の課題に直面します。ここでは、代表的な3つの課題とその解決策を解説します。
人事部門のリソース不足
最も多く聞かれる課題が、日常のオペレーション業務に追われ、戦略業務に割くリソースが不足しているという問題です。
給与計算、勤怠管理、社会保険手続きなどの定型業務に人事部門の大半の時間が費やされ、経営戦略に紐づく戦略的な業務に取り組む余裕がないという状況は、多くの企業に共通しています。
解決策としては、以下のアプローチが有効です。
- BPO・シェアードサービス化:定型的なオペレーション業務を外部に委託し、人事部門のリソースを戦略業務にシフトする
- HR Techの導入:勤怠管理システムや給与計算ソフト、ワークフローシステムなどを活用し、業務を自動化・効率化する
- 業務の棚卸し:現在の人事業務を洗い出し、「やめる・減らす・自動化する」業務を特定する
経営戦略の反映が難しい
「経営層と人事部門の間で方向性がずれている」「経営戦略が抽象的で、人事戦略に落とし込めない」という課題もよく見られます。
経営層は人事部門に戦略的な貢献を期待しているものの、具体的に何を求めているのかが明確でないケースや、人事部門が経営の意思決定プロセスに参画できていないケースが少なくありません。
解決策としては、以下のアプローチが有効です。
- CHRO(最高人事責任者)の設置:経営ボードに人事の責任者を参画させ、経営と人事の一体化を組織的に担保する
- 経営会議への人事責任者の参画:経営戦略の策定段階から人事の視点を反映させる
- 定期的な経営・人事の対話の場の設定:経営戦略を人材戦略に翻訳するための継続的なコミュニケーション機会を設ける
データ基盤の未整備
戦略人事にはデータに基づく意思決定が不可欠ですが、人事データが部門・システム間で分断され、統合的な分析ができないという課題を抱える企業は少なくありません。
採用データは採用管理システムに、勤怠データは勤怠管理システムに、評価データはExcelに、というようにデータが散在している状態では、組織全体を俯瞰した分析は困難です。
解決策としては、以下のアプローチが有効です。
- タレントマネジメントシステムの導入:人材データを一元管理し、部門横断的な分析を可能にする基盤を構築する
- データ統合基盤の整備:既存の各システムからデータを集約・統合するデータウェアハウスやBIツールを導入する
- データガバナンスの確立:データの定義・入力ルール・更新頻度を統一し、データの品質を担保する仕組みを整える
戦略人事の成功事例
戦略人事に先進的に取り組み、成果を上げている企業の事例を紹介します。自社の取り組みの参考にしてください。
日清食品
日清食品は、グローバル展開を加速させる経営戦略に連動した人材戦略を推進しています。
特に注目すべきは、次世代リーダーの育成に力を入れている点です。グローバルで活躍できる経営人材を計画的に育成するプログラムを導入し、若手のうちから海外拠点での実務経験を積ませる仕組みを構築しています。
経営戦略の中核である「グローバル成長」を人材面から支えるために、人事部門が経営と一体となって人材育成の仕組みを設計・運用している好例です。
日立製作所
日立製作所は、ジョブ型人材マネジメントの導入・拡充を通じて戦略人事を実践している代表的な企業です。
グローバル共通の人材マネジメント基盤を構築し、ジョブ型人材マネジメントを基盤とした制度運用を進めています。職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づくポジション管理を徹底し、適材適所の配置と公正な評価を実現しています。
この取り組みは、経営戦略としての「社会イノベーション事業のグローバル展開」を支えるために、人事制度を根本から変革した事例として広く知られています。
出典:日立製作所「会社概要」
味の素
味の素は、ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)経営と連動した人材戦略を展開し、人的資本経営の先進企業として高く評価されています。
「食と健康の課題解決」という企業パーパスを起点に、従業員一人ひとりの成長と企業価値の向上を両立させる人事施策を推進しています。従業員のエンゲージメント向上、多様な人材の活躍推進、自律的なキャリア開発の支援など、経営戦略と密接に連動した人材戦略を実行しています。
人的資本に関する情報開示にも積極的で、統合報告書やサステナビリティレポートを通じて人材戦略の成果を詳細に公開しています。
出典:味の素「ASVとは」
戦略人事を成功させるポイント
戦略人事を一過性の取り組みで終わらせず、持続的に機能させるための重要なポイントを解説します。
経営トップのコミットメント
戦略人事の成功に最も大きな影響を与えるのは、経営トップの理解と支援です。
人事部門だけの努力では、戦略人事への転換は実現できません。経営トップが「人材は経営の最重要資源である」という認識を持ち、人事部門を戦略的パートナーとして位置づけることが不可欠です。
具体的には、以下のような組織的なコミットメントの仕組みが有効です。
- CHROの設置と経営ボードへの参画
- 経営会議における人材議題の定例化
- 人的資本に関するKPIの経営指標への組み込み
- 経営トップ自らが人材戦略の重要性を社内外に発信
HR Techとデータの活用
戦略人事を効率的かつ効果的に推進するためには、HR Techとデータの活用が欠かせません。
タレントマネジメントシステム、ピープルアナリティクスツール、エンゲージメントサーベイなどのHR Techを活用することで、データドリブンな人事意思決定が可能になります。
2026年は特に、生成AI・AIエージェントの人事業務への活用が加速しています。採用プロセスの効率化、従業員のキャリア開発支援、組織分析の高度化など、AIを活用した人事業務の革新が進んでいます。
ただし、テクノロジーはあくまで手段であり、目的ではありません。「何のためにデータを活用するのか」「どのような意思決定を改善したいのか」を明確にしたうえで、適切なツールを選定・導入してください。
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戦略人事に関してよくある質問
戦略人事と人事戦略は何が違うのですか?
戦略人事は「経営戦略の実現を目的に、人事が経営パートナーとして機能する考え方・役割」を指します。一方、人事戦略は「経営戦略の実現に向けた施策の体系」です。戦略人事という大きな枠組みの中で、具体的な人事戦略を策定・実行するという関係にあります。両者は対立する概念ではなく、戦略人事の実現手段として人事戦略が位置づけられます。
戦略人事を始めるには何から取り組めばよいですか?
まず自社の経営戦略・中期経営計画を正確に理解することから始めましょう。経営層との対話を通じて、事業の方向性と人材面の課題を把握します。次に、経営戦略の実現に必要な人材像を定義し、現状とのギャップを分析します。すべてを一度に変えようとするのではなく、小さな施策から着手し、成果を可視化しながら段階的に拡大していくのが効果的です。
戦略人事の推進に必要な組織体制は?
理想的には、HRBP・CoE・OD&TD・OPsの4つの機能を整備することが望ましいですが、すべてを一度に導入する必要はありません。自社の規模やリソースに応じて段階的に体制を構築していくアプローチが現実的です。多くの企業では、まずHRBP(HRビジネスパートナー)の設置から始め、事業部門との連携を強化することで戦略人事の第一歩を踏み出しています。
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戦略人事は経営戦略を実現する人事の進化形
本記事では、戦略人事の定義から背景、4つの機能・役割、具体的な施策例、実践ステップ、必要なスキル、課題と解決策、成功事例、成功のポイントまでを体系的に解説しました。
戦略人事とは、経営戦略を実現するために人的資本を最大限に活用する「攻めの人事」です。単なるトレンドではなく、VUCA時代の経営環境において人事部門が果たすべき本質的な役割の進化といえます。
2026年は人的資本可視化指針の改訂、開示義務の拡充、生成AIの活用加速など、人事を取り巻く環境がさらに大きく変化しています。この変化を「脅威」ではなく「機会」と捉え、戦略人事への転換を進めることが、企業の持続的な成長につながります。
まずは自社の経営戦略を深く理解することから始め、現状の人事機能を棚卸しし、戦略業務へのリソースシフトを一歩ずつ進めていきましょう。

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