2〜3カ月の初動を“数分化”──新薬調査をAI導入で加速させたスタートアップ「LinDo」の仕事術
- 製薬業

導入前の課題
- 候補薬剤ごとに調査・検討が必要で、少人数では初動のリサーチ負荷が重かった
- 調査会社に依頼すると費用・時間がかかり、複数品目を並行検討しづらかった
- 海外情報の収集〜抽出〜整形が手作業中心で、初動のボトルネックとなっていた
導入後の成果
- 2〜3カ月かかっていた初動を“数分”で回せるようになり調査・検討のスピードがアップ
- 月約240時間を捻出でき、検討・企画・判断に充てられる“余裕”を生み出せた
- 1回300万〜500万円の一次検討を社内で回せるようになりコスト構造を転換できた
【企業紹介】
- 会社名:株式会社LinDo(リンドウ)
- 設立:2023年
- 事業内容:医薬品の開発、製造、販売及び輸出入
- 従業員数:20名弱
日本で承認されていない海外医薬品が患者さんのもとに届かない…いわゆる「ドラッグロス」は、国としても解決が急がれる社会課題です。2023年設立の株式会社LinDoは、海外で承認済み、あるいは承認が見えてきた医療用医薬品の日本への導入を行う製薬スタートアップ。少人数体制でありながら、経験豊富な製薬業界出身者が集まり、スピード感ある事業推進を目指しています。
一方で、この事業の要となるのが「候補薬剤ごとの一次検討」です。従来型の調査に頼ると時間もコストも重く、並行検討が難しい。そこで同社は、複数LLMの使い分けと検証プロセスを前提に、JAPAN AIを導入しました。
今回お話を伺ったのは、2025年1月に入社し、業務効率化や仕組みづくりを担う事業企画本部の部長・石川さん。軽快な語り口の一方で、AI活用に対する視点は徹底して現実的。導入前の課題から、導入後の運用までを見据えた“設計思想”について聞きました。

▶︎導入前の課題
ドラッグロス×スタートアップ…少人数組織には“重すぎる”従来型調査
―――JAPAN AI:まず御社の事業の概要と、生成AIを本格導入する前に抱えていた課題を教えてください。
――石川氏
株式会社LinDoは、日本の「ドラッグロス」という課題に対して、海外で承認済み、あるいは承認が見えてきている医薬品を中心に、日本への導入を行うスタートアップです。私は経営企画の立場で、業務効率化を含めた会社運営の仕組みづくりを担当しています。製薬会社出身ということもあり、「ドラッグロスを解決したい」という問題意識は以前から持っていて、それが入社の動機にもなりました。
ドラッグロスは国としても重点的に解決を促している領域ですが、候補リスト化されている品目だけで完結する話ではありません。海外で承認されているのに、日本では導入されていない医薬品は他にもある。そこにビジネスとしての可能性があり、同時に患者さんへの貢献につながるなら、私たちが主体的に見つけにいく必要があります。
一方で、課題はシンプルで、「調べる」ことの負荷が極端に大きいことです。医薬品は海外製品も多く、薬剤そのものの情報に加えて、疾患の状況、医療現場での受け止められ方、地域ごとの患者数の推定、導入した場合の売上規模など、検討には多岐にわたる調査が必要になります。
これを従来型でやろうとすると、調査会社に依頼して質問票設計からアンケート実施、集計までを回し、2〜3カ月かかるのが当たり前です。費用もテーマによっては一回で数百万円単位になります。スタートアップは人数が少ない。だからこそ、大手と同じやり方をしていたら持ちません。
私たちにとって必要だったのは、意思決定の初動で“当たりをつける”ための一次検討でした。どこに重点を置くべきか、まずは絞り込みの方向性を出す。詳細化はその後で十分です。そう割り切れた瞬間、生成AIは「導入するかどうか」を迷う対象ではなく、「使わないと前に進まない」前提条件になりました。

―――JAPAN AI:数ある選択肢の中でJAPAN AIを選んだ決め手と、導入時に工夫した点を教えてください。
――石川氏
私は個人的には、以前からChatGPTとGeminiを触っていました。そこで実感したのは、LLMにはそれぞれ得意不得意があって、一つに固定すると判断の幅が狭くなるということです。だから当初から、社内としても複数LLMを使える前提で考えていました。
ただ、大手企業のように「個別に全部契約する」というやり方は、スタートアップだとコスト的にも運用的にも難しい。さらに医薬品領域なので、セキュリティ要件も軽くはありません。将来的に患者さんの情報など、個人情報に接する可能性もありますし、海外治験情報などを扱う場面も出てきます。公開情報であっても、扱い方を誤るのは避けたい。
これらを検討した結果、最もバランスが良かったのがJAPAN AIでした。他社では「当社の別サービスとセットで使うと効率化できます」という提案が追加されるなど、私たちが期待している使い方とは合わなかった。結果として、トータルの整合性が一番高いところに決めました。機能だけでなくサポートなど、「この会社と一緒に進められるか」という感覚も大きかった。
新しい技術は、結局「慣れと理解」です。最初のハードルを越えるために、社内では最低限の使い方の共有資料を作って、まず“触れる状態”を作りました。あとは、使い始めた人が成果を出すと、周りも自然に追随していきます。大手だとリテラシー教育などを行うケースもあると思いますが、私は基本、放置気味です(笑)。でも、AIを使ったスピード感のある仕事を見ていると、「やっぱり使ったほうがいいのかな」と思ってくるものですよ。
▶︎導入後の変化
2カ月かかる初動を“数分”に変える──調査・検討のスピードが意思決定を加速させた
―――JAPAN AI:実際に導入してから、どの業務がどう変わりましたか? 具体的な使い方と成果を教えてください。
――石川氏
一番大きいのは、調査・検討の「初動」が変わったことです。たとえば、ある薬剤を日本に導入すると仮定したとき、売上規模の概算、医療従事者の受け止め、地域ごとの患者数の推定など、検討したい項目はいくらでも出てきます。従来なら調査会社に依頼して2〜3カ月、費用も数百万円という世界でした。
ただ、スタートアップでそれを毎回やるのは現実的ではありません。そこで私たちは、調査会社に依頼する際の「質問設計」に近い形で、社内にテンプレートを用意しました。疾患名など必要な変数だけ入れて回すと、まず一次検討のアウトプットが出る。気になる点があれば追加で確認し、必要に応じて二つのLLMでファクトチェックする。それでもトータルで数分です。あとは人が「読む」「判断する」時間に集中できる。ここが決定的に違いました。
もちろんこれらのステップは「初動」であって、必要に応じて調査会社へ依頼し定性・定量調査を行っています。
この「初動が軽くなる」変化が何を生むかというと、並行検討数が増えるんです。私たちは今、20品目規模で同時に検討しています。従来型の調査を前提にすると、20品目を並行で進めるのは難しく、結局は最初から絞らざるを得ない。しかし今は、まず広めに当たりをつけて、患者さんへの貢献が見込めそうなものを絞り、そこに投資する、そんな意思決定ができるようになりました。結果として、費用効率も上がります。
定量で見ると、変化はシンプルです。
・時間:月約240時間=1人当たり丸4営業日分の余裕を創出
・コスト:一次検討を外注すると1回300万〜500万円かかる工程を、社内で回せる状態に
社内向けには、「残業削減」ではなく、「業務時間を生み出した」と整理してレポートしています。見立てとしては、月あたり240時間超を捻出できました。1人当たり4営業日分くらいの余裕が毎月増えたイメージですね。新たな企画を考えたり、他の業務に振り向けたりできる“余裕”が生まれた、ということになります。
さらに“見えないコスト”という観点でも変化は大きい。従来なら一回の調査で300万〜500万円規模が発生し得る一次検討を、社内で回せるようになりました。もちろん、もともと「20品目×300万円」を実際に投下していたわけではないので、単純に削減したというより「成立しなかったコスト構造を変えた」と言ったほうが正確かもしれません。それでも、この構造的な変化は大きいと思います。

患者数を推定する画面。都道府県ごとに推定人数を出すことができる
AIは完成品ではない。“小さく試す”反復が、使い方の最適解をつくる
―――JAPAN AI:今後、どんな方向でAI活用を広げていきたいですか。最後に、導入を検討する企業へのメッセージもお願いします。
――石川氏
たとえば、海外で承認された医薬品の情報を拾いにいく作業は、現状ではFDA(米国食品医薬品局)など各国のデータベースを見て、抽出して、整形して…という地道なプロセスが残っています。ここはまだ人の手が必要です。ただ、AIエージェントやAgentic AIの流れを見ていると、クローリングやデータ取り込みまで含めて、遠くない将来に自動化できる余地は十分あると思っています。さらに社内データが蓄積されていけば、予測や分析、生産・販売フェーズでの意思決定など、活用領域は確実に広がっていくはずです。
AIは完成品ではなく、日々アップデートされています。だからこそ、乗り遅れないように情報を取りに行きながら、思いついたアイデアを小さく組み込んで試す。その反復がいちばん現実的だと考えています。
導入を検討されている企業には、最初から“完璧”を求めないことをおすすめします。AIは100%正しい存在ではありません。だからこそ、確認やファクトチェックのプロセスをあらかじめ設計し、まずは一次検討や議事録など、効果が見えやすいところから小さく始める。そこで「業務のスピードが変わる」という実感が出ると、社内の空気は確実に変わっていきます。
スタートアップに限らず、少人数でも大企業でも、正しく活用できれば仕事の進め方を大きく変えられる技術です。使わない理由を探すより、どう使えば前に進めるか。その発想に切り替えられた瞬間から、AIは強い味方になると思います。





