50年の蓄積データを“武器”に変える!ルイ高が語る“現場発”AI活用の実感
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導入前の課題
- 販売予測と在庫管理など、発注管理におけるデータ集計が簡素化できていなかった
- 議事録作成や売上集計など、定型作業とともに確認作業に時間を要していた
- 勤怠や契約書チェックなどバックオフィス業務が煩雑で、人手不足が顕著だった
導入後の成果
- 議事録作成は半減、売上集計は1時間→数十分に短縮され、確認作業に集中できるように
- 提案資料やリーフレットをAIで下書きし、顧客へのレスポンスが迅速かつ丁寧に
- 総務や営業など部署ごとの課題に即した活用が広がり「AIを使えばできる」文化へ
【企業紹介】
- 会社名:株式会社ルイ高
- 資本金:7,000万円
- 事業内容:スポーツ・公園施設器具等の開発・販売
- 従業員数:42名
スポーツ施設向け器具を手がける老舗メーカー・ルイ高。創業50周年を迎えた同社は、これまでもいち早くIT環境を整備し、Windows95時代からは20年以上にわたり納入実績データを蓄積してきた。RPAの導入を検討しつつも「データを“使える形”にする」ためにAI活用へ舵を切り、DX推進室などを置かずに各部署からの選抜10名でスモールスタートを開始。社内各部署の現場の課題にAIを当てはめることで、着実に成果を上げつつある。今回は代表の松井さんをはじめ、様々な現場の取り組みを聞くため、総務部の黒沢さん、営業推進室の岩藤さん、営業部の千代さんにお集まりいただいた。

▶︎導入前の課題
情報の蓄積は十分、足りなかったのは“運用の仕組み”
➖➖➖JAPAN AI:御社の事業内容や業界での役割、そして感じていた課題について教えていただけますか?
➖➖松井氏
当社はファブレスメーカーで、全国の自治体や学校のスポーツ施設に競技器具を納めています。創業期から「データを残す」文化があり、顧客別に販売実績を手書きで管理していた時代もありました。Windows95の頃に社内イントラを整備して以来、1990年代後半からさらに納入実績を蓄積してきました。今でも例えば「2000年1月15日に愛知県へ何を納めたか」までさかのぼれる状態です。
一方で、情報があるだけでは武器になりません。人手不足が進む中、過去実績・在庫・需要トレンドを突き合わせ、仕入れや生産管理の判断までつなげる“運用の仕組み”が不足していました。まずはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を検討しましたが、社内でゼロから構築・保守していく現実性を考えると断念せざるを得ませんでした。そこで、より柔軟に既存のデータと今の業務をつなげられる手段としてAIに目を向けた、というのが出発点です。
もう一つの背景は業界特性です。大規模施設の安全性(例:アルミ製サッカーゴールの転倒リスク回避)や長寿命化など、訴求すべきポイントは多様で、提案の幅を広げるにも“社内の知見を素早く引き出す力”が要ります。蓄積されたナレッジを現場で使えるスピードに変える…そこにAIの可能性を感じました。

※画像:代表の松井さん(右)と総務の黒沢さん
「用途を決めつけない汎用性」と「現場ごとの相談に乗る柔軟さ」
検討を開始してからは東京ビッグサイトの展示会に行き、複数社の話を聞きましたが、用途を特定領域に絞ったサービスが多かった印象です。私たちは部署横断で使いたい。そこで、JAPAN AIは“どの部署でもまず当てはめて試せる”汎用性があり、選択肢に上がりました。
使用用途のほか、セキュリティも重視しました。様々なクライアント情報を扱う以上、取り扱い体制に納得できることが前提です。その点を確認できたことが導入の後押しになりました。コスト面でも、アカウント使用料よりも大きな効率化が得られるなら、経営判断として妥当と考えました。
推進体制はシンプルに構築しました。専任のDX推進室は置かず、私が朝礼で「まずは10名で使ってみよう」と選抜。各部署が自分の業務に当てはめて試し、良さを確認できたら横展開する。JAPAN AI側も、窓口一本化だけでなく部署ごとのユースケース相談に柔軟に乗ってくれたので、立ち上がりはスムーズでした。現場のレベル感にばらつきがあっても遠慮なく質問できる雰囲気があったのは、実務的に助かりました。
▶︎導入後の変化
Excel勤怠の月次処理を短縮、想定外に効いた「契約書チェック」
➖➖➖JAPANAI:総務部では、実際にJAPAN AIを導入してから、どのような成果や変化が見えましたか?
➖➖黒沢氏
総務は表に出ない分、毎月の定型業務が重い。出退勤の申請から出勤簿の完成まで、Excel中心のフローが煩雑で、私の手元に集まってからの“確認・整形”に時間を取られていました。AIに一次処理を任せるようにしてから、最終のダブルチェック・トリプルチェックの前段が整い、全体のスピードが上がりました。勤怠アプリでは拾いにくい当社の運用(事業場外みなし労働)にも、Excel前提のまま柔軟に寄せられる手応えがあります。
導入前は想定していなかったのですが、契約書のリーガルチェックが想像以上に効いています。自社の雛形と先方フォーマットを突き合わせ、初期確認と最終確認を短時間で済ませられるようになりました。モデルは現状、JAPAN AIからの推奨どおりClaude中心。以前に別モデルで推論が不正確だった経験があり、確からしさを優先して使い分けています。テンプレート化も進め、毎回の指示を最小にする設計にしています。

営業推進室:売上見込みの合算「1時間→5~10分」、議事録は「半日→約1時間」に
➖➖岩藤氏
営業推進室では主に、データの管理や全体会議の議事録作成を担っています。以前は、営業から毎月上がってくる見込みExcelを全社合算するのに、コピー&ペーストを繰り返して1時間ほど掛かっていました。今は各人のファイルを投げ込んで一括集計し、5~10分で完了します。
議事録も効果が大きい業務です。責任者クラスが集まる会議をまとめようとすると、2本の会議で合計4時間になることもあり、以前は午前中いっぱいを議事録作成に費やすのが当たり前でした。AIを使えば音声の文字起こしに加え要点整理まで済むため、今は約1時間で仕上げられます。出力フォーマットを社内の書式とAIからの推奨にも寄せながら、コンパクトにまとめられる形へ調整中です。
さらに、コードインタープリターを使うことで、Excel集計や分析の幅がぐっと広がり、エリアごとの売上データをランキング化したりグラフ化したりするのはもちろん、 ABC分析や予測のような少し踏み込んだ依頼にも対応できるようになりました。複数メンバーのファイルの必要な部分だけを抜き出して集計するといった作業も、ざっくりとしたオーダーで形にしてくれます。 こちらが細かく指示しなくても、必要そうな切り口を提案してくれることもあり、頼れる相棒のような存在です。

※画像:各支店の売上実績を分析
営業:提案資料「約1時間→10分」、反応が目に見えて変わった
➖➖千代氏
私は外勤の営業担当と共に顧客対応を支えています。納入実績のデータは社内にそろっているので、従来でも“近隣の類似事例”を探すだけなら数十秒でできました。ただ、それを“伝わる提案資料”に落とすのは別作業で、きちんとまとめると約1時間は掛かる。今はお客様の所在地や条件を入れて、近い実績のピックアップからスライド化までAIに一連の流れを頼めます。最終の微修正だけで済むので、10分程度で出せるようになりました。
このことにより、何よりお客様の反応が違います。「こんなに早く、ここまで丁寧にやってくれたの?」と驚かれることが増え、打ち合わせの質が上がりました。社内の課題は、製品情報や価格データがPDFや個人フォーマットで偏在していること。ナレッジを統一・集約し、AIに聞けば数値がすぐ出る環境を整えれば、新人教育にも直結すると感じています。営業推進とは役割分担しつつ、ブログやカタログ・リーフレット作成でもAIを活かしていきます。

※画像:営業部で提案資料作成を依頼
“現場が見つける使い道”が組織を動かす
JAPAN AI:社内でAIを根付かせていくために、大切なことは何だと思いますか?
➖➖松井氏
導入して分かったのは、経営が想定していなかった活用が現場から自然に生まれてくることです。正直、内勤の提案資料づくりの工夫などは今回の取材で初めて知り、いい意味で驚かされました。やはり“現場発”の気づきや挑戦が、文化を育てていくのだと感じています。
現在は主にClaude 4を中心に使っていますが、AIにはさまざまなモデルやツールがあり、今後は用途に応じて幅を広げていく必要があります。どう選び、どう定着させるか、その知恵を社内に蓄積することが次のテーマです。
展開の仕方は“頻度の高い人から”でいいと思っています。利用機会が多い担当者に渡し、馴染んだ段階で全社に広げるのが自然な流れ。その中でも特に、まだ導入していない開発・設計部門には早めに使ってもらいたい。新しいアイデアを練ったり、工場の協力先を探したりする業務はAIと相性が良く、大きな可能性を秘めています。
最初から完璧な体制は不要だと思っています。私たちも専任のAI推進室は作らず、選抜10名で始めました。各部署が“自分の仕事”に当てはめて試し、効いたら横に広げる──それで十分に前へ進みます。コストは時給未満でも、戻ってくる時間は大きい。人材難が続く中小企業にとって、AIは確かな相棒になります。現場が見つけた工夫を尊重する。そこから文化が生まれ、使い方は自然に増えていくはずです。